映画評『壬生義士伝』新撰組で最も強かった男・吉村貫一郎。守銭奴と呼ばれてもつらぬきたい志と、身は修羅と化しても守りたい愛が彼にはあった。

サムライ 映画評
スポンサードリンク

『壬生義士伝』
2003年松竹
英題:When the Last Sword Is Drawn
監督:滝田洋二郎
脚本:中島丈博
原作:浅田次郎
音楽:久石譲
出演:中井貴一
   佐藤浩市
   夏川結衣
   中谷美紀
   山田辰夫
   三宅裕司
   塩見三省
   中村祐人
   堺雅人
   斎藤歩
   比留間由哲
   神田山陽
   堀部圭亮
   津田寛治
   加瀬亮
   村田雄浩
   藤間宇宙
   伊藤英明



『壬生義士伝』イントロダクション

明治32年、東京市、冬。

夜の暗い街路を、一人の老人(佐藤浩市)が子供をおぶって急いでいた。

老人はとある小さな診療所にたどり着くと、戸を叩こうとするが、そこには「当院は転居につき閉院とさせていただきます」との張り紙が。

一瞬の躊躇はあったが、老人はかまわず診療所の戸をたたいた。

なかでは、引っ越しの準備中の大野千秋(村田雄浩)が酒を飲みながら荷造りをしていたが、快く老人を招き入れる。

老人は「孫の熱が下がらなくて」と大野に背負っていた子供をみせるが、子供は注射を嫌がり、はずみで散らかったテーブルから写真たてを落としてしまう。

子供を叱りつつ、拾った写真を何気なく見ると、老人は一瞬にして凍り付いた。

「このお方は・・・!」

そこには一人の幕末浪士の姿が映っていた。

「ご存知ですか?」と尋ねる大野に「いや・・・」とかろうじて知らぬふりをする老人だったが、心中去来するものがあった。

老人は思う。

――忘れるはずもない。吉村貫一郎(中井貴一)。わしが最も憎んだ男。そして、あの狂った幕末の戦乱を共に戦った、壬生の狼・・・。

老人の正体は、あの新撰組の隊士、斎藤一だったのだ。

斎藤は思い出していた。

壬生で産声を上げた新撰組は、あのころ得意絶頂の時期で、池田屋だなんだと、天かを剣でねじ伏せたつもりの、怖いもの知らずの集まりだった。

斎藤が吉村貫一郎をはじめてみたのはそのころ。

土方歳三(野村祐人)が選んだ新入隊士のなかに貫一郎はいた。

北辰一刀流の免許を持つ貫一郎の構えを見た斎藤は、一目でそれが人を切ってきた修羅の剣だと見抜く。

永倉新八(比留間由哲)との真剣を使った試合を、互角に戦ってみせた貫一郎は、近藤勇(塩見三省)により新撰組の剣術師範に任命される・・・。



新撰組で最も強かった男・吉村貫一郎。守銭奴と呼ばれてもつらぬきたい志と、身は修羅と化しても守りたい愛が彼にはあった。『壬生義士伝』

浅田次郎の同名小説を『おくりびと』の滝田洋二郎監督が手掛けた時代劇大作。

幕末の世に、壬生の狼と恐れられた新撰組の隊士・吉村貫一郎の波乱の生涯を、悲痛なまでの家族愛と共に描く。

飢饉が続く南部盛岡藩の下級武士・吉村は、飢えに苦しむ家族を救うために脱藩し、新撰組に入隊する。

新撰組からの給金は家族のもとに仕送りするだけでなく、新撰組の規則に反して陰で試し切りをする斎藤一から口止め料を取り、それも家族に送る吉村貫一郎。

周りからは金の亡者のようにみられてはいたが、そこにあるのは家族への愛、そして脱藩したとはいえ、武士としての木を貫き通す、真の侍の姿があった。

貫一郎を演じるのは中井貴一。

その剣裁きはだてに時代劇の芸歴を重ねてきたわけではない、迫真のものがある。

普段の立ち居振る舞いも、貫一郎の人柄を感じさせる絶妙の演技。

また、佐藤浩市をはじめとする豪華キャスト陣も好演をみせる。

浅田次郎の原作は2000年に柴田錬三郎賞を受賞、この映画も2004年の日本アカデミー賞で、最優秀作品賞、最優秀主演男優賞(中井貴一)、最優秀助演男優賞(佐藤浩市)、優秀監督賞、優秀助演男優賞(三宅裕司)、優秀助演女優賞(中谷美紀)を受賞している。



こちらの作品もどうぞ!
≫映画評『武士の家計簿』加賀藩御算用者である下級武士・猪山直之は家業の算盤の腕を磨き出世するが、親戚づきあい、養育費、冠婚葬祭と、武家の習慣で家計は火の車だった・・・

コメント

タイトルとURLをコピーしました