『ザ・ウォーク』
2015年アメリカ
監督:ロバート・ゼメキス
主演:ジョセフ・ゴードン=レヴィット
原作: フィリップ・プティ『マン・オン・ワイヤー』
1974年、今は無きワールドトレードセンターのツインタワーを綱渡りして道行く人々を魅了したフランス人大道芸人、フィリップ・プティの物語。
挑戦者:フィリップ・プティの半生
物語の主人公フィリップ・プティは実在の人物で、1949年フランス生まれ。
幼少時から問題児だったようだ。
その彼が大道芸に魅入られ、パパ・ルディに弟子入りするも、客への敬意を払わないその態度にルディから追い出される。
17歳になってもわが道を行く生き方は変わらず、実の親から縁を切られる。
それからフィリップは無許可のストリート・パフォーマンスで日銭を稼いでいた。
大道芸の中でもフィリップが力を入れていたのが、綱渡り。
パリのノートルダム大聖堂の2つの尖塔の間に綱を張って渡ったり、、シドニー・ハーバーブリッジの横断など、数々の挑戦で世間の注目を浴びるようになっていった。
1973年。
ある日歯医者の待合室で見た雑誌記事が彼の運命を決める。
それは当時建設中で、完成すれば地上110階、高さ411メートルの世界最高層ビルとなるワールドトレードセンターの記事だった。
そのツインタワーの頂上にワイヤーを渡し、綱渡りをするため、フィリップと仲間たちは動き出す・・・。
ラスト30分、ロバート・ゼメキス監督独特のフィルムカラーがいかんなく発揮される
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズ、『フォレスト・ガンプ 一期一会』、『コンタクト』など数々の名作を送り出してきたロバート・ゼメキス監督。
CGやVFXを実写と違和感なく美しく合成することには定評がある。
その技術はこの『ザ・ウォーク』でもいかんなく発揮されている。
ノートルダム大聖堂の屋上の綱渡りシーンもそうだが、白眉はやはりラスト30分のワールドトレードセンターの綱渡りシーン。
大空とワールドトレードセンター、自動車や人々が豆粒のように見える地上と、そこを空中散歩するフィリップ。
それらをグルグルとまわるカメラワークが、実にスリリング。
それに加えて、大都会を高層ビルから見渡すあの美しさを、余すことなく描き出している。
そこにフィリップの綱渡りが、美しい芸術として際立つ。
あの忌まわしい同時多発テロ事件で倒壊してしまったワールドトレードセンターは、今はその姿を拝むことはできない。
だが在りし日のワールドトレードセンターの姿はこのフィルムの中によみがえった。
ジョセフ・ゴードン=レヴィットが演じるフィリップ・プティが繰り出す数々の大道芸の技も見どころだ。
高所で命綱なしの綱渡りシーンなどは、まあ、背景とのCG合成なんだろうなと推測できるが、ジャグリングや一輪車などは、ジョセフ・ゴードン=レヴィット自身が習得し実際に演技したものだろう。
見事なものだ。
一流の役者の演技に、監督の一流のフィルムワーク、これが一流の芸術映画となって現れた。
日本では宣伝の少なさもあってか、作品の知名度は意外に低い。
だがアメリカ本国での評価は上々。
映画批評集積サイトのRotten Tomatoesにおいて、批評家支持率は85%、平均点は10点満点で7.2点。
上述の技術的な部分と、劇中でしっかり描かれたフィリップ・プティの人間ドラマのバランスの良さが、映画の評価を高いものにしている。
芸に命を懸けた男を描いた芸術の2時間を、ぜひ一度視聴してみてほしい。
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