『アビス 完全版』
1989年/1993年アメリカ
原題:The Abyss
監督:ジェームズ・キャメロン
脚本:ジェームズ・キャメロン
音楽:アラン・シルヴェストリ
出演:エド・ハリス
メアリー・エリザベス・マストラントニオ
マイケル・ビーン
『アビス 完全版』イントロダクション
とある海域で、航行中のアメリカの原子力潜水艦が謎の海中物体を探知した。
それは時速130ノットという信じられないスピードで海中を動き回り、潜水艦はそれを追うため速度を上げるが、誤って崖に衝突、沈没してしまう。
急遽、救出チームが編成されるが、ハリケーンのためすぐに駆けつけられるのは、民間の海底油田海中採掘基地に勤務するヴァ―ジル・ブリッグマン・・・通称バッド(エド・ハリス)のチームだけだった。
会社からは3倍の特別ボーナスが出ると聞かされ盛り上がるチームだったが、バッドは冷静に駆け引きする。
このところの作業続きでチームのメンバーは疲れているはずなのだ。
だが、軍の特殊部隊からはコフィ大尉(マイケル・ビーン)が派遣されてきて、状況はのっぴきならなかった。
深海に潜れば、また海上に上がるまでには減圧措置で十数日かけなければならなくなるが、バッドたちは深海に潜る。
潜水チームの面々が、コフィを先頭に原子力潜水艦に取りつく。
ハッチを外から開けて、なかに入り込むコフィたちだったが、潜水艦のなかはすべて浸水しており、生存者はいなかった。
潜水艦内部を探索するバッドたちチームのかたわら、コフィたち軍人は密かに原潜から核弾頭を回収する。
軍の情報によると近海にはソ連の原子力潜水艦が2隻航行しており、原潜沈没の原因はソ連の攻撃だと推察、報復の手段としてコフィは核弾頭を入手したのだった。
いっぽう、船外活動にあたっていたバッドの妻、リンジー(メアリー・エリザベス・マストラントニオ)は、謎の発光物体を目撃する。
この深海で自由に動き回る生物を、リンジーは未知の生命体であり、原潜沈没の原因もこれではないかと推測した。
いちど海中採掘基地に戻ったコフィとバッドたちチームだったが、嵐のなか、基地のクレーンと通信装置が破損、外部から孤立してしまう。
ソ連原潜への報復をしようとするコフィは、不慣れな海底での活動もあり、精神的に追い詰められ、やがてバッドたちと対立するようになる。
そんな中、基地の内部に謎の流動生命体が現れる。
それを目撃したリンジーたちは、謎の生命体の存在を確信するが、コフィはますます態度をかたくなにしてしまう。
やがて狭い基地内、コフィとバッドたちの間で、核弾頭を巡る争いが巻き起こる・・・。
深海を舞台に未知の生命体との驚異の遭遇を壮大なスケールで描く海洋SFファンタジー『アビス 完全版』
のちに『ターミネーター2』(1991年)でアクション大作の監督としてもその地位を確立するジェームズ・キャメロンの海洋SFファンタジー。
ファンタジーと言ってもそれは深海の謎の生命体についてだけで、そのほかはリアルな海底サバイバル・アクション映画になっている。
なんといってもこの映画のみどころは、その海中シーンの特撮の美しさだ。
実際の水を使わず、スモークを満たした密閉室にセットを作り、ミニチュアをワイヤーで吊るして撮影する方法なのだが、セットの巨大さも類を見ず、またスタッフのテクニックもあいまって、非常に見通しの良い、だがリアルな深海の描写に成功している。
劇中、深海での活動を可能にする小道具として液体酸素とも呼べる特殊な液体が登場する。
この液体の中に沈められたネズミが、死ぬことなく液体のなかで活動するシーンがあり、物語クライマックスでも主人公が深海活動を可能にするため用いている。
これは酸素を多量に含む特殊な液体で、医療行為にも用いられる実際にある液体なのだが、1995年の日本のアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』において、主人公たちが乗るエヴァンゲリオンの操縦室がこれと似た液体(劇中ではLCLと呼ばれる)に満たされ、搭乗者を衝撃から守る設定として登場する。
年代的にも『アビス』のこの液体呼吸が元ネタだと思われる。
ジェームズ・キャメロン監督といえば『エイリアン2』(1986年)も忘れてはならないが、このとき登場したパワーローダーとエイリアンの格闘戦を彷彿とさせる、小型潜水艇同士の水中での迫力のガチンコ対決もこの『アビス』にはある。
人間が乗って操縦する巨大メカのぶつかり合いが好きなのは、キャメロン監督の日本のロボットアニメからの影響のようだ。(じっさい、『エイリアン2』をさしてキャメロンは「これは僕にとってのガンダム・ムービーだ」という発言がある)
この『アビス』で登場する液体状の生物のCGの技術と発想は、のちに『ターミネーター2』につながっていく。
もとはキャメロン監督の高校時代に書き起こした短編小説がもととなった『アビス』が、実際に形となり、その後の作品にも影響を与えていくという意味では、モニュメンタルな作品だと言っていいだろうが、案外表だって「『アビス』好き!」と公言している人は少ないように感じるが、どうだろうか(笑)
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