『ターミナル』
2004年アメリカ
監督:スティーヴン・スピルバーグ
主演:トム・ハンクス
英語がしゃべれない主人公ビクター(トム・ハンクス)。
JFK空港に降り立った瞬間、主人公の祖国クラコウジア(架空の国、ロシア語圏)で革命が勃発、入国ビザがおりなくなってしまう。
アメリカの土を踏むことができなくなってしまったビクターは空港のターミナルから出られない。
孤立無援のビクターが次第に職員たちとの友情をはぐくみ、切ない恋をするコメディ・ヒューマン・ドラマ。
主人公が最初英語を話せない、コミュニケーションとれないもどかしさがうまく描かれていて、非英語圏に暮らす我々としてはビクターへの感情移入がしやすいと思う。
英語圏の空港スタッフも、英語はしゃべれども白人黒人、インド人、ヒスパニック、雑多な人種で構成されており、アメリカが移民の国であることを思い出させる。
そして非英語圏(主人公)と英語圏(空港スタッフ)の対立構図とともに、じつは英語圏の中でも立場の違いが各キャラクターに設定されていて、これが隠れたドラマになっている。
主人公ビクターが対面してしまった「国境を越える・越えられない」という問題が、そういったアメリカのマイノリティにも共通の問題であることを知らしめているのだ。
空港内で様々なトラブルを解決しながら、少しづつ仲間を増やしていくビクターは人種や国境を越えた「真面目さ」「誠実さ」というキャラクターで説得力を得ているのも構造的に面白い。
人間と人間のあいだを取り持つのは、必ずしも共通の言語だけではない、というのが制作陣のメッセージではないだろうか。
単身の海外旅行をしたことがある人は、自分の初旅行の時の不安やドキドキを思い出すだろう。
だからだろうか、英語学習の教材としても、よくこの作品はあげられる。
英語が話せない外国人が、たった一人で英語圏の中に飛び込まなければならないという、主人公と気持ちがオーバーラップしやすいからだろう。
主人公ビクターも次第に英語が話せるようになっていくのだが、学習法も面白かった。
ニューヨークを紹介するパンフレットだ。
英語版とクラコウジア語版を読み比べながら、少しづつ英語の意味を理解していく。
打ち解けて仲間になる空港職員とのたどたどしいやり取りも、すごく効果的な英会話の練習になっただろう。
そういうわけで、英語学習者はとくに、視聴の際は字幕を切ってごらんになることをお勧めしたい。
空港のセットもすごい。本物かと思ったが、調べてみるとすべてセットで、基本はJFK空港だが、実際の複数の空港をモデルに組み合わせてあるとのこと。
中の店舗も実際にあるものばかりで、牛丼の吉野屋もあったりする。日本人にはほっとするところだ(笑)
この空港の構造の複雑さも、作品のテーマの象徴を具現化したものと言えるのかもしれない。
先ほども述べた、人種の壁、言葉の壁、たくさんの見知らぬ人、気持ちで通じた仲間・・・。
そういったものが、幾階層にも折り重なったターミナルの階層や、中と外を隔てるたった一枚の自動扉、雑多な店舗、そしてそこを行きかう旅行者と職員たちを象徴する。
それらが視覚的にも伝わるようになっている。
クローズド・キャプションの作品だからこそ、セットの設計にも神経を注いだといえる。
空港のターミナルに閉じ込められた主人公が、そこでどんな「広がり」を得るのかがこの作品のカタストロフである。
ぜひご覧になって確かめてほしい。
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