映画評『万引き家族』社会の底辺にいる家族を通して描かれるヒューマンドラマ

映写機 映画評
スポンサードリンク

『万引き家族』
2018年ギャガ
原案・監督・脚本:是枝裕和
音楽:細野晴臣
出演:リリー・フランキー
   安藤サクラ
   松岡茉優
   城桧吏
   佐々木みゆ
   樹木希林

『万引き家族』社会の底辺にいる家族を通して描かれるヒューマンドラマ

万引き・置き引きなど軽犯罪を家族ぐるみで繰り返す一家の姿を通して描かれるヒューマンドラマ。

親の年金を不正に受給していた家族が逮捕された事件に着想を得たという。

東京の下町で、古い平屋に暮らす奇妙な家族がいた。

年金受給者の初枝(樹木希林)と、治(リリー・フランキー)、信代(安藤サクラ)の夫婦、信代の妹の亜紀(松岡茉優)、息子の祥太(城桧吏)の5人は、社会の底辺にいるような貧乏暮らし。

初枝の年金が一家の収入の柱であったが、足りない生活費を万引きで稼いでいた。

家族は口は悪いがいつも笑いが絶えない日々を暮らしていた。

治は祥太と組んでスーパーや釣具店、駄菓子屋で万引きを、信代はクリーニング店で働いていたが、ポケットに忘れられていたアクセサリーはこっそり持ち帰る。

亜紀は風俗店でアルバイトをしている。

ある日、近所の団地の廊下で震えていた女の子(佐々木みゆ)を見つける。

見かねた治が、その女の子を連れて帰ると、信代は女の子に「りん」という名前を付け、娘として育てることにする・・・。

『万引き家族』の評価と数々の栄冠(以下ネタバレ有)

是枝監督はこの作品で2018年・第71回カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞。

これは日本映画としては1997年の『うなぎ』(今村昌平監督)以来、21年ぶりの快挙である。

また第91回アカデミー賞では、日本映画では10年ぶりの外国語映画賞ノミネートを果たしており、海外でも高い評価を獲得している。

日本国内でもその評価は劣らず第42回日本アカデミー賞で最優秀作品賞を含む8部門で最優秀賞を受賞した。

これら栄冠の数々は是枝監督の演出はもちろん、出演者の演技のすばらしさにもよるところが大きい。

是枝監督はドキュメンタリー出身でもあり、『万引き家族』もリアリティがあふれている。

一部脚本を使わず口頭でセリフを説明し、役者自身の言葉でセリフを言わせるという独特の演技指導のやりかたも、ドキュメンタリーで踏んできた是枝監督の経験から来るものだろう。

そして各登場人物を演じる役者陣が、見事な演技で監督のオーダーに答えてこそのリアリティがある。

一度この作品を見てしまうと、もう治はリリー・フランキー以外考えられないし、信代は安藤サクラ以外ありえない。

そういった配役に役者が応えたからなのか、役者が監督とキャラクターを煎じ詰めて作り上げたからなのか。

役者とキャラクターが不可分になっているのが素晴らしい。

そんな6人のかりそめの家族が物語後半、たった一つの出来事がきっかけで壊れていく。

壊されていく。

その過程が身につまされる。

悪役がいるわけではない。

家族を壊すのは社会のシステムや既成の概念なのだ。

これが実際にも起こりうるし、起こっているかもしれない、と感じさせるストーリー・テリング。

監督のキャリアであるドキュメンタリーの手法が生きている。

そして血はつながっていないけれども、家族然とした絆でつながれたこの家族の姿は、普遍的だ。

だから世界でこの作品が受け入れられた。

ラストシーン、迎えられぬ本当の両親のもとに帰った少女は、再び、治に見つけられた時と同じように、団地の廊下で一人遊びをする。

そしてふと、何かに気づいたように塀から身を乗り出し、何かを言おうとするところで、画面は暗転、映画は終わりとなる。

少女が見つけたものは何だったのか。

何を言おうとしていたのか。

この作品の脚本段階では、子どもに「お父さん」「お母さん」と呼んで欲しいと願う治や信代の思いが重点的に描かれていたという。

そして撮影中につけられていたタイトルは、『万引き家族』ではなく、『声に出して呼んで』。

推してほしい。

こちらの作品もどうぞ!
≫映画評『グッモーエビアン!』ロックでパンクなファミリーの泣けるストーリー

コメント

タイトルとURLをコピーしました