『スケアクロウ』
1973年アメリカ
原題:Scarecrow
監督:ジェリー・シャッツバーグ
脚本:ギャリ―・マイケル・ホワイト
音楽:フレッド・マイロー
主演:ジーン・ハックマン
アル・パチーノ
『スケアクロウ』イントロダクション
二人の男が高原の寂れた街道をヒッチハイクしていた。
ひとりはマックス(ジーン・ハックマン)。
暴行傷害の罪で服役し、6年の刑期を終えて出所してきたところだった。
もう一人は5年越しの船乗り生活を辞めたライオン/ライアン(アル・パチーノ)。
どうということはないきっかけから、二人は出会う。
マックスは洗車屋を始めるために故郷のピッツバーグへ、ライオンは一度もあったことのない子どもに会うためにデトロイトへ向かう途中だった。
喧嘩っ早く、神経質なマックスにたいして、陽気で人懐っこいライオン。
正反対の気質の二人は、いつのまにか意気投合し、旅の道を同じくすることになる。
もめ事を起こしたマックスに、ライアンは「殴りたくなったら笑わせなよ」という。
ライアン「かかし(スケアクロウ)の話を知ってるか」
マックス「いいや」
ライアン「カラスはかかしを怖がる?」
マックス「当然だろ? それがなんだ」
ライアン「カラスは怖がってなんかいない。笑ってるんだ。かかしはおかしな帽子におかしな顔をしてるだろ。あれはカラスを笑わせるためさ。笑ったカラスはこう思う。“ジョン爺さんは本当にいい人だ、困らせるのはよそう”」
マックス「そんなバカげた話ははじめてだよ」
ライアン「本当さ、カラスは笑ってる」
話を聞いたマックスは鼻で笑うが、「どうして自分を相棒に選んだんだ」と問うライアンに、マックスは「笑わせてくれたから」と答える・・・。
奇妙な二人の友情を描くロードムービー『スケアクロウ』
性格が正反対なのに、妙に気が合い友情を深めていく二人の男を描いたアメリカン・ニューシネマの傑作ロードムービーで、その抒情的な美しいフィルムから第26回カンヌ国際映画祭パルムドール、国際カトリック映画事務局賞を受賞している。
二人の主人公、マックスとライアンは、性格は両極端だが、共通点が一つある。
それは、世渡りが決定的に下手なタイプの人間だということだ。
ふたりとも他人に対して感情が繊細すぎる。
それがマックスの場合は暴力になって現れ、ライアンの場合は自分を押し殺したやさしさになって現れる。
そういった感情の機微が、この映画では二人の名優によって表現されている。
パルムドール受賞作によくあることだが、カウチポテトで気楽に楽しむには難易度の高い作品だ。
観る者にもある程度の人生経験を要求する。
だがそれゆえに、普遍性があるともいえる。
マックスやライアンのように、世間ずれした生き方はできないかもしれないが、二人が育む友情の在り方は、どこか理想であり、手を伸ばせば手に入るようなものでもあり・・・。
フラワームーブメントがすっかり終わってしまった1970年代のアメリカン・ニューシネマ・ロードムービー。
夢や理想ばかりでは人生を過ごせないことを、残念ながら教えてくれる。
二人の旅は終わらない『スケアクロウ』(ネタバレ有)
劇中、二人に転機が訪れるのは、騒ぎを起こして二人そろって刑務所に入れられてから。
ライアンは強姦されそうになり(男性の囚人に、だ。アメリカの刑務所ものではよく見かける)、拒んだライアンはボコボコに殴られる。
マックスがそれに復讐する。
ライアンの情緒がそのあたりからおかしくなりはじめるのだが、実に繊細な演じ分けで、さすがアル・パチーノ、となる。
二人で出所し、ライアンのそもそもの目的である子供に会う、というシーンでも、いざとなるとライアンは尻込みし、結局は電話をすることになる。
電話には元恋人が出て、すでにほかの男と結婚していること、子供は流産したこと(実は元気な男の子を生んで育てている)をライアンに告げる。
子どもにプレゼントしようとしていた時計も、このとき電話ボックスのそばの車のボンネットの上に忘れて(故意に、だろう)去るのが印象的。
そして噴水で子供たちと遊ぶライアンの行動がついにおかしくなる。
入院となるライアン。
マックスはひとり、ピッツバーグ行の旅券を買うのだが、このとき往復券を買うのがステキだ。
マックスはライアンのもとに戻ってくるつもりであることが暗示されている。
ここで映画は終わるが、いつかまた二人は旅をするのだろう。
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