映画評『桜田門外ノ変』吉村昭の同名小説をもとに、幕末の大老・井伊直弼襲撃事件の前後の顛末を水戸藩側の視点から丁寧に描き出した作品

サムライ 映画評
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『桜田門外ノ変』
2010年東映
監督:佐藤純彌
脚本:江良至
   佐藤純彌
原作:吉村昭
音楽:長岡成貢
出演:大沢たかお
   長谷川京子
   柄本明
   生瀬勝久
   渡辺裕之
   加藤清史郎

『桜田門外ノ変』イントロダクション

密輸アヘンの没収から端を発し、「最も恥ずべき戦争」と呼ばれたアヘン戦争。

敗れた清国は1842年、広州にくわえて厦門、福州、寧波、上海の開港と、イギリスへ二千百万ドルの賠償金と香港の割譲の条約を締結させられた。

そして、1857年、イギリスとフランスは、より多くの権益を求めて清国に軍隊を送り、広州を占領。

さらに北上して天津を占領し、アヘン貿易の黙認、北京に公使館の開設、中国内地の通商の自由などの権利を勝ち取った。

列強が狙う次の標的は、日本だった。

一八六〇年一月、水戸。

蟄居を命じられた水戸藩氏、関鉄之介は三味線を弾いて監視を欺きながら、オランダ語の学習に余念がない。

その鉄之介に一通の手紙が差し入れられる。

おなじ水戸藩の元奥祐筆頭取である高橋多一郎からだった。

内容は攘夷のため出奔を促すためのものだった。

翌朝、鉄之介は身なりを整え、妻と息子を置いて江戸へ旅立つ。

江戸で水戸藩北部奉行の野村常之介と合流する鉄之介は、脱藩藩士が用心に用心を重ねて江戸各地に潜伏していることを知らされる。

鉄之介は江戸での愛人いのの家に潜り込んだ。

そこで思い出すのは七年前、黒船来航のことだ。

江戸を黒船から守るために水戸藩は軍備を整えたはずだったが、大老の井伊直弼が独断でアメリカと通商条約を結んでしまった。

井伊直弼を撃つべく三月三日、脱藩水戸藩氏たちは桜田門外にての襲撃を決行することに。

その現場責任者に、関鉄之介が任される・・・。

吉村昭の同名小説をもとに、幕末の大老・井伊直弼襲撃事件の前後の顛末を水戸藩側の視点から丁寧に描き出した作品『桜田門外ノ変』

日本の歴史の大きな転換点となった大老・井伊直弼襲撃事件へと至る経過とその後の顛末を、襲撃者側である水戸藩士たちの視点から丁寧に描き出した作品。

吉村昭の同名小説が原作。

監督は『男たちの大和/YAMATO』(2005年)の佐藤純彌。

原作では時系列を追って事件の経過を追っているが、本映画では冒頭からの三分の一ほどで桜田門外の襲撃事件が発生し、残りの三分の二で襲撃に至るまでの経緯と、水戸浪士たちの動向に焦点を当てて描き、主人公である関鉄之介の捕縛と斬首、そして明治維新によって桜田門を通り江戸城入場を果たす新政府軍の行進で幕を下ろす。

見せ場となる桜田門外襲撃シーンのために、約2億5千万円をかけてオープンセットが組まれた。

この襲撃シーンはさまざまな資料にあたり、実際の桜田門外の変にほぼ忠実であるとされる。

桜田門外の変は、独断で開国を進める井伊直弼を斃し、外国の脅威から日本を守らんとせんという憂国の志士たちが起こした事件ではあったが、日本の情勢は開国へと進んでいくのは歴史のとおり。

この事件に加担した水戸浪士たちのみならず、幕末の混乱した日本には、こういった時代のあだ花たちが数多いた。

あるものは雄姿として歴史に名を残したが、この桜田門外の変で井伊直弼を討った水戸浪士たちのように、ほとんど名を知られることもなく散っていったものたち。

彼らはけして悪として誤った道を歩んだわけではなく、時代にかみ合わなかった悲劇の勇者たちなのだ。

本作はそんな歴史の陰に隠れる人物たちを、しっかりした歴史考証をもとに、丁寧に映像化している。

今ある私たちの日本をつくった隠れた立役者たちに、思いをはせるに足る情緒的な作品だ。

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