『裏窓』
1954年アメリカ
監督:アルフレッド・ヒッチコック
脚本:ジョン・マイルス・ヘイズ
主演:ジェームズ・ステュアート
グレース・ケリー
あらすじ
足を骨折して部屋から動けないカメラマン:ジェフ(ジェームズ・ステュアート)は、自分のアパートの部屋から見える中庭と向かいのアパートの住民たちの暮らしぶりを眺めることが楽しみだった。しかしある時、セールスマン(レイモンド・バー)の夫と激しく口論していた妻の姿が見えなくなっていることに気が付く。セールスマンの様子をうかがううちに、ジェフは夫が妻を殺害したのではないかと疑うようになり、恋人のリザ(グレース・ケリー)と看護人ステラ(セルマ・リッター)、友人で刑事のトーマス(ウェンデル・コーリイ)を巻き込み調査を始める・・・。
ウィリアム・アイリッシュの同名小説を原作とするクローズド・キャプション・サスペンス。
『裏窓』から覗くさまざまな人間模様
サスペンス具合では同じくヒッチコック監督の『サイコ』ほどではないが、スリリングな演出やスキのないカット割りはさすが巨匠・ヒッチコックの傑作である。
原作のアイデアが良かったのだと思うが、アパートのいくつもの階層に住む人々の生活・人生のワンカットを折り重なるように描き、ひとつの部屋から身動きできない主人公にもかかわらず、奥行きのある世界観を感じさせる。その主人公の部屋から見える狭い世界が舞台のすべてなのであるが、とはいえ、どこかちょうどいい場所を見つけてきたわけではなく、すべてセットで作ったという。作ったといわれると、「こんな大がかりなものを!」と驚くサイズ感とリアリティ・作りこみである。
クローズド・キャプションにありがちな脚本の饒舌さは時代的にもしょうがないところではあるが、それが故に映画のみならずテレビでもリメイクされ、舞台化もされるのであるから、構成がしっかりしていることの証左でもある。
さて裏窓、いわゆる表玄関とは反対に位置する、中庭や建物の背面にむかって設置された窓のことであるが、この裏窓、みんな開けっ放しなのである。物語的にはそうじゃなければ成り立たないのだけれど、開けっ放しなのにはわけがある。21世紀の現代なら各部屋にはエアコンが設置され、裏窓は締め切られ、室外機が唸り声を上げているだろう。しかし物語の時代設定は1950年代、真夏のニューヨーク。みんな窓を一日中開け放っているのが普通の光景だったのである。
この映画の華やかな見所の一つはグレース・ケリー。『裏窓』公開の翌年の55年に映画『喝采』でアカデミー賞女優賞を受賞、さらに56年にはモナコ公国レーニエ大公と結婚、27歳の若さで芸能界を引退した美女である。『裏窓』では美しさ真っ盛りのグレース・ケリーにキュートさが加わり溜息もの。
『裏窓』ではいくつもの人間模様が描かれる。売れない作曲家、男を手玉に取る女、失恋に苦しむオールド・ミス、そして今回の事件の中心人物のセールスマン・・・。もちろん主人公ジェフの人生もだ。ジェフは恋人リザの猛烈なアタックをのらりくらりとかわす、まだ冒険に焦がれて身を固めたくない男だ。それが事件が進むうちに、次第に自分の中のリザの重要性に気が付いていく。サスペンスの中に、ヒッチコックが用意した周到なロマンスが、この映画の小気味よいアクセントになっている。
世の中には地味だけど傑作という作品は山とある。その中でもこの『裏窓』は映画ファンなら知っておきたい・観ておきたい傑作のうちの一本だ。AFI(アメリカン・フィルム・インスティテュート。アメリカ合衆国において「映画芸術の遺産を保護し前進させること」を目的とした機関。)選出の「アメリカ映画ベスト100」(1998年)で42位はなかなか通を刺激する順位ではないか。(ちなみに1位『市民ケーン』2位『カサブランカ』3位『ゴッドファーザー』)さあ、あなたも『裏窓』を観て映画通ぶろう!
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