映画評『羅生門』黒澤明が日本映画の文学性を世界に知らしめた記念碑的傑作

映写機 映画評
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『羅生門』
1950年大映
監督:黒澤明
脚本:黒澤明
   橋本忍
原作:芥川龍之介『藪の中』
出演:三船敏郎
   森雅之
   京マチ子
   志村喬
   千秋実

『羅生門』イントロダクション

平安時代、戦乱と疫病で荒廃した京の都。

荒れ果てた羅生門で杣売り(志村喬)と旅法師(千秋実)、下人の男(上田吉二郎)の三人が雨宿りしている。

杣売りと旅法師は、検非違使の取り調べから帰るところだった。

下人の男は雨宿りの暇つぶしに、二人からある事件の話を聞き始める。

その内容は多襄丸(三船敏郎)という悪名高い盗賊が、金沢武弘(森雅之)という武士を殺し、金沢の妻、真砂(京マチ子)を襲ったというものであった。

だが、金沢の死体の発見者である杣売りと、多襄丸、真砂、そして巫女による交霊で呼び出された金沢の三者の証言がそれぞれ食い違うという、奇妙なことになってしまう・・・。

海外で高く評価された『羅生門』の映像美

監督の黒澤明は、この『羅生門』で数々の画期的な撮影手法を試みた。

モノクロながら自然光を最大限に生かし、森の中のシーンをシャープに描き出すことに成功した。

また、当時タブーとされていた、太陽に直接カメラを向け、鮮烈な映像を作り出した。

また雨の羅生門のシーンでは、降りしきる雨がモノクロでは見えにくいため、水に墨を混ぜて色を付け、ホースで散水し羅生門に降らせている。

これは同じく黒澤明監督の『七人の侍』(1954年)でも使われた手法だ。

こういった撮影は黒澤一人の功績ではなく、撮影監督である宮川一夫の手腕でもある。

宮川はのちにも黒澤映画のみならず大映、京都太秦のの重要な撮影スタッフとして、世界的な評価を得ていくのである。

高い文学性を誇る『羅生門』の世界

ひとつの事件に絡む3人の証言者の、それぞれの証言が食い違うという奇妙な出来事を描いたこの映画。

人間のエゴイスティックな部分を描き出したことで、高い文学性も持つことになった。

死体となった金沢武弘の第一発見者であり、検非違使に通報した第一発見者の杣売り。

加害者でありながら、自らの所業をまるで手柄のように吹聴する多襄丸。

多襄丸に夫・金沢武弘を殺され、犯されながらも生き残った被害者の真砂。

そして死者となった金沢を口寄せ(降霊)して、金沢の言を肩代わりする巫女の証言。

そのどれもが、事件を違ったものに見せる。

そのことにより杣売りは人間不信になり、立ち会った旅法師もひとの心を疑い苦悩する。

世界の舞台で高評価を得る『羅生門』

『羅生門』は公開当時、難解さと斬新すぎる映像から、日本国内では芳しい評価は得られなかった。

新しい価値観が認められるのはいつの時代も困難が伴う。

とくに日本人は保守的傾向が強く、それまでの習慣や作法をなかなか崩そうとしない。

これが覆るのは、往々にして外圧によってだ。

『羅生門』は日本映画として初めてヴェネツィア国際映画祭金獅子賞と、アカデミー賞名誉賞を受賞した。

それにより国内の評価は手のひらを返したように『羅生門』と黒澤をもてはやす。

黒澤明の世界的評価は一時的なものではなく、『七人の侍』はアメリカ西部劇に引用されたし、『用心棒』はマカロニ・ウエスタンの原作になったし、のジョージ・ルーカスの『スター・ウォーズ』は『隠し砦の三悪人』からモチーフを得ている。

他にもスピルバーグやコッポラにも影響を与えているのだから、「世界のクロサワ」の名に恥じない。

初期クロサワの代表作である『羅生門』、尺も90分程度で見やすいので、未見の方はぜひ、ここからクロサワ体験をはじめてみてはいかがだろうか。

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