映画評『羅小黒戦記』

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関東圏で小さく上映が開始され、ネットの口コミで素晴らしい中国アニメがある、と聞いて以来、福岡でも上映されるのを首を長くして待っておりました。

福岡の単館系劇場KBCシネマで上映が始まり、さっそく見に行ってまいりました。

妖精と人間が共存する世界を舞台に、猫の妖精・小黒(シャオヘイ)が旅をしながら人間社会を理解していく姿を描いた冒険活劇です。

この世には妖精が実在し、人間の格好をして社会に溶け込んでいるものいれば、山の奥で隠れて暮らすものもいるといったふうに、いびつな共存関係にあります。森で日々を送っていた猫の妖精・小黒は、人間たちによって森が切り開かれてしまったことから、暮らす場所を探して各地を放浪、その旅の途中で妖精のフーシー、人間のムゲンと出会った小黒は、彼らとの交流を通じてさまざまなことを学び、成長していきながら、再び安心して暮らせる場所を求めて旅を続ける・・・というストーリーです。

視聴後の感想としては、シンプルにハイクオリティ・アニメを見せてもらったさわやかさがありました。
派手に飛び回るカメラワーク。往年の香港カンフー映画の残り香を感じさせるアイデアあふれたアクションシーン。スピーディーに動く場面があれば、すかさず小さなギャグをはさんだり、じっくりみせるシーンなどメリハリも良い。単なる勧善懲悪ものではなく、かといって人情でベタベタしすぎてもいない、ちょうどよい落としどころの脚本。
日本のアニメの影響をあちこちで窺わせるも、モノマネで終わらずその影響を否定することなくちゃんとリスペクトしていることもありありとうかがえました。

東京で上映が始まるや否や、アニメ業界の方たちがこぞって噂して見に行き、上映のたびに満員となったということですが、さもありなん、です。

一点残念だったのは、これは配給会社のせいだと思うのですが、日本語字幕がときおり背景に色が溶けて読みにくいことがあるところですね。これは本編制作陣には全く落ち度がないだけにやや残念。ブルーレイ・DVDソフト化の際には改善されていることを望みます。

これは個人的な深読みですが、妖精の世界を侵食する人間を中国政府、妖精を政府統制下で管理下に置かれようとしているクリエイーターや何かしらの活動家、と読み替えると、現体制に対するメッセージがうかがえるのではないか、人間でありながら妖精たちにも寄り添うムゲンの立ち位置を、監督・脚本のMTJJさんは自身の反映として描いているのではないか、などと考えてみたりもします。

と考えると、今回の『羅小黒戦記』、キャラクターの作画や背景の緻密さ、アクションシーンのすばらしさなど視覚的な部分で褒めるところが大きく、脚本はぎりぎりオーソドックスなのも、やはり中国での表現規制の厳しさをうかがわせるのかな、と。

が、とりもなおさず、この『羅小黒戦記』は素直に楽しめるおススメの全年齢映画になっております。

今後日本のアニメは、こんなのと戦わなけりゃいけなくなったんだなあ。

原題:羅小黒戦記 The Legend of Hei
監督・脚本:MTJJ

公式ホームページ:https://heicat-movie.com/

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