『サイコ』
1960年アメリカ
監督:アルフレッド・ヒッチコック
原作:ロバート・ブロック
脚本:ジョセフ・ステファノ
音楽:バーナード・ハーマン
出演:アンソニー・パーキンス
ジャネット・リー
『サイコ』イントロダクション
アリゾナ州フェニックスの昼下がり。
ホテルの一室で情事にふける男女がいた。
女はマリオン・クレイン(ジャネット・リー)、男はサム・ルーミス(ジョン・ギャヴィン)。
サムはカリフォルニアで金物屋を営んでいたが、離婚した元妻に毎月振り込まなければならない慰謝料など、経済的な悩みを抱えており、マリオンとの再婚に踏み切れないでいた。
そんなサムにマリオンは、いらだちをおぼえる。
職場の不動産会社に戻ったマリオン。
そこに社長と共に現れた、調子のいい成金風の中年男性。
彼は4万ドルをポンと現金で支払う。
その4万ドルを社長は貸金庫に預けるようにマリオンに指示する。
マリオンは4万ドルの札束をもったまま、銀行にはいかず魔が差したように家に持って帰ってしまう。
そして旅支度をすると、車でサムのいる街へ向かう。
それを交差点での信号待ちのあいだ、不動産屋の社長に姿を目撃されてしまう。
道中、路肩に車を止め仮眠を取っていたマリオンは、パトロールの警官に挙動を怪しまれ、尾行される。
マリオンは車を乗り換えるため中古自動車店で中古自動車を買う。
そこで4万ドルのうちの700ドルに手を付ける。
雨の中、夜のハイウェイを走るマリオンは、一軒のモーテルを見つけ、立ち寄ることにする。
そのモーテルの名は「ベイツ・モーテル」。
旧幹線道路沿いで客がほとんど来ないそのモーテルで、マリオンは一晩過ごすことにする。
モーテルの管理人の青年ノーマン・ベイツ(アンソニー・パーキンス)は、なにかとマリオンの世話を焼こうとするが、モーテルから少し離れたノーマンの家からは、彼の母親のヒステリックな声が聞こえてきて、マリオンを不安にさせる・・・・。
ヒッチコック監督の文字通りサイコ・スリラーの金字塔『サイコ』(ネタバレ有)
恐怖の叫びでゆがむマリオン(ジャネット・リー)の顔のアップのカットと、印象的なバーナード・ハーマンのひっかくようなストリングスのサウンドは、きっと映画ファンならずともいちどは見たり聞いたりしたことがあるだろう。
文字通り、『サイコ』はアルフレッド・ヒッチコック監督の誇るサイコ・スリラーの金字塔だ。
序盤は4万ドルをくすねてしまったヒロイン・マリオンの心理的葛藤を丹念に描いたクライム・サスペンスとして構成され、マリオンの不審を呼ぶ言動や警官や中古車ディーラーとのやり取りは、マリオンの横領がばれるのかどうかでスリリングな思いをさせられる。
ところが今度は、マリオンは唐突にシャワールームで刺殺される。
怪しいのはノーマン・ベイツ(アンソニー・パーキンス)なのではあるが、刺殺シーンはマリオンの叫び、振り下ろされる凶器、流れるシャワーのお湯に溶ける鮮血などのカットが短く繰り返され、映画史に残る屈指のシーンとなっている。
そこからストーリーはマリオンの行方を追う恋人のサムとマリオンの姉、探偵に主眼がうつり、ベイツ・モーテルを巡る謎追いの物語へと変わっていく。
中盤でヒロインで売りのジャネット・リーが退場となるのも画期的だが、前半と後半でこのように主人公が変わるのも大胆だ。
これはロバート・ブロックの原作によるところなのだろうが、このような構成で最後まで魅せてしまうヒッチコックの映像テクニックあらばこそ。
今見ても見劣りしないフィルムワークは、あのスピルバーグをはじめ後世の様々な監督・映像作家たちにお手本にされてきた。
この『サイコ』一本だけ見てもヒッチコックの手練手管が堪能できる。
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