『ミスティック・リバー』
2003年アメリカ
監督:クリント・イーストウッド
主演:ショーン・ペン
ティム・ロビンス
ケヴィン・ベーコン
原作:デニス・ルヘイン
『ミスティック・リバー』あらすじ
ジミー、デイブ、ショーンの三人は幼馴染だった。
少年時代、一緒に遊んでいる中、デイブだけが誘拐、監禁される事件が起きる。
それから三人の仲は疎遠になっていた。
少年時代の事件から25年がたち、再び町で事件が起きる。
ジミー(ショーン・ペン)の愛娘ケイティが殺された。
刑事になっていたショーン(ケヴィン・ベーコン)が捜査に乗り出す。
心にトラウマを抱えたまま大人になったデイブ(ティム・ロビンス)には疑いの目が向けられ・・・。
それぞれに大人になった三人の思惑が、一つの事件を巡って交差する。
過去と現在をたどりながら悲しさを深める大人たち
少年時代の忌まわしい記憶を抱えたまま、それぞれ違う25年を過ごしてきた大人たちの心情を、ショーン・ペン、ティム・ロビンス、ケヴィン・ベーコンがそれぞれ見事に演じる。
ショーン・ペン演じるジミーは町の顔役、裏社会にも通じる親分だが、家族を深く愛する男。妻もジミーを信じついていく。
ケヴィン・ベーコンが演じるのは刑事の職を選んだショーン。だがショーンは妻子とは別居中。性格も少しひねくれている。
二人は「あの時、もし連れ去られたのがデイブではなく自分だったら?」「あの時デイブを見捨てていなかったら?」と、後悔とも自責ともつかない感情にけりをつけられないままでいる。
そして少年時代に誘拐、監禁されたトラウマをひどく抱え、(劇中の職業は不明だが)パッとしない生活を送る毎日のデイブ役にティム・ロビンス。
この三人三様の疑念や嘘、すれ違う思惑がパズルのピースのように組み合わさり、、ミステリー・ドラマが展開していく。
力を合わせれば事件は解決できるかもしれない。だが、できない。フィルムは丹念に説得力を持ってその様子を描写していく。
刑事として事件解決に奔走するショーン、自力で娘のかたきを追うジミー、そして容疑の目を向けられてしまったデイブ。
三人の男たちが、それぞれ社会的にも心情的にも異なる立ち位置にいることで生まれるやりきれなさが全編を貫いている。
その3人の俳優の演技にも着目したい。
3人は脚本を読み込み、自分たちだけで研究し、撮影に臨んだという、作品への入れ込みようだ。
そしてその成果は確実にフィルムに現れている。
取りこぼしなく映画を完成させたクリント・イーストウッド監督も腕の見せどころだったろう。
犯人捜しもオマケじゃない
事件が起きたからには、犯人捜しも当然おざなりでは済まされない。
ジミーの娘ケイティが殺された晩、デイブが彼女を目撃していた最後の人物で、かつ、同じ夜に不審な挙動があったことが事件を難しくする。
デイブを信じたいが、その晩けがをして帰ってきたデイブに疑念を向ける彼の妻が、ジミーの妻のいとこ、というのもまた複雑だ。
そうして物語が進むにしたがって、加速度的にパーツがそろう感覚はミステリー映画としてもなかなかの構成。
さて、真犯人はだれなのか。
イーストウッド作品の流れにある『ミスティック・リバー』
毎年のようにハイペースで映画を撮り続けるイーストウッドの作品の中で、『許されざる者』(1992)、『パーフェクトワールド』(1993)、『ミリオンダラー・ベイビー』(2004)、『チェンジリング』(2008)、『グラン・トリノ』(2008)、そして今作『ミスティック・リバー』のように、ときおり、人生の不条理やアメリカ社会の暗部を描いた作品が出てくる。
どれも、けして大作狙いをしてはいないが、制作する作品はアカデミー賞で常連だ。
『ミスティック・リバー』ではショーン・ペンが主演男優賞、ティム・ロビンスが助演男優賞を受賞。
惜しくも受賞は逃したが、ノミネートでは作品賞、監督賞、助演女優賞(マーシャ・ゲイ・ハーデン)、脚色賞(ブライアン・ヘルゲランド)が挙げられている。
イーストウッド作品にハズレなし。
『ミスティック・リバー』でも、それは名実ともに証明されている。
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