映画評『月に囚われた男』デヴィッド・ボウイの息子の初監督作にして21世紀の新しいSFミステリー

月 映画評
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『月に囚われた男』
2009年イギリス
原題:MOON
監督:ダンカン・ジョーンズ
主演:サム・ロックウェル

『月に囚われた男』イントロダクション

近未来、石油をはじめとする地球の資源は枯渇しようとしていた。

主人公サム・ベル(サム・ロックウェル)は、月の裏側で採掘されるエネルギー源を地球に送るため、ルナ産業からたったひとり、3年の契約期間で派遣されていた。

月での生活は、毎日決まった時間に起き、ランニングマシーンに乗り、1日1回、月面を掘削してヘリウム3を抽出するルーティーン。

話し相手はロボットのガーディだけ。

地球との交信は、通信衛星の事故で不能となり、別れた妻とのやり取りを録画したメッセージビデオを繰り返し視聴するばかりだった。

そうして3年の契約期間もあと2週間で満期、ようやく地球に帰還できる日が迫っていたある日、サムは搭乗していたローバーで事故を起こして致命傷に近い傷を負い、意識を失ってしまう。

月にいるのはサムひとり、相棒のガーディは基地外で活動することはできない。

だが、つぎに目覚めたサムは、なぜか基地のベッドに無事な姿で横たわっているのだった・・・。

ダンカン・ジョーンズの監督デビュー作にして傑作SFミステリー

監督をつとめたダンカン・ジョーンズは、伝説のミュージシャンであるデヴィッド・ボウイの実の息子。

1971年生まれの彼が少年期に親しんだであろう1970年代、80年代のSF映画のオマージュが、この『月に囚われた男』にはちりばめられており、往年のSFファンにとってはうれしい演出があちこちに垣間見ることができる。

基地の中で植物をめでる主人公の様子は『サイレント・ランニング』(1972)を思い出させるし、白を基調としたメカニックや基地内のインテリアは、『2001年宇宙の旅』(1968)の偉大すぎる影響下にある。

主人公が操るローバーや採掘メカは、色をブラックにすれば『エイリアン』(1979)に出てきてもおかしくない。

そうは言いつつ、この『月に囚われた男』は単なる老人を喜ばせるための懐古作品ではない。

舞台となる月面には、たった一人(とロボット一体)がいるだけのはずだが、そこには複雑な罠が張り巡らされて、主人公のサムだけでなく、視聴者の我々も謎に引き込む、21世紀の新たなSFミステリーとなっているのである。

主人公を務めるサム・ロックウェルの演技に注目(以下ネタバレあり)

主演のサム・ロックウェルは多数の映画でさまざまな役を演じ分けてきた実力派。

ある時は孤独で寂しい青年、ある時は凶暴な殺人犯とさまざまな役を演じ分けてきた。

ベルリン国際映画祭の男優賞を受賞した経歴ももつ。

ある意味器用なサム・ロックウェル、今回の「月でたったひとりの人間」をどのように演じたのか?

ここから少々ネタバレになるのだが、冒頭怪我を負ったサムと、直後に目覚めたサムはなんと別人。

彼らはクローンだった、という設定が明かされる。

3年ごとにクローン・サムは寿命となり、つぎのサムが基地内で目を覚ます、というわけだ。

今回は不慮の事故で最初のサム(便宜的にサムαとしよう)が死んだと判断したコンピューターが、つぎのサム(サムβ)を目覚めさせたのだ。

だがサムαは死んでいなかった。

サムβはサムαを見つけてしまい、救助する。

同じ顔をした二人のサムを、ロックウェルは見事に別のキャラとして演じ分けている。

ややおとぼけで、人懐こいサムα。

クールでほとんど笑わないサムβ。

二人のサムは協力して自分たちの過酷な運命に立ち向かうことになる。

全編ほぼサム・ロックウェルの独演状態なのだが、見ていてちゃんと二人のキャラクターがいるのがわかるのが素晴らしい。

作品はインディーズ・スタイルの低予算で、わずか33日という短期間で撮影されたらしいが、そのようなことは作品を見ていて気になることはない。

むしろよくぞこのクオリティで仕上げたものだと感心する。

監督ダンカン・ジョーンズはこの後『ミッション:8ミニッツ』(原題:Source Code )(2011年)という、これまた高評価な、だが知る人のみぞ知るSF作品も撮っている。

タイムループもののスリラーなのだが、興味がわいた人はこちらもおススメしたい。

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