映画評『仁義』これぞフレンチ・フィルム・ノワールの真髄!

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『仁義』
1970年フランス・イタリア
原題:Le Cercle Rouge
監督・脚本:ジャン・ピエール・メルヴィル
出演:アラン・ドロン
   イヴ・モンタン
   ジャン・マリア・ヴォロンテ
   フランソワ・ペリエ
   アンドレ・ブールヴィル

『仁義』イントロダクション

マルセイユからパリへ向かう寝台列車。

コンパートメントの一室に、二人の男の姿があった。

ひとりは刑事のマテイ(アンドレ・ブールヴィル)、もう一人は逮捕され護送されるボジェル(ジャン・マリア・ヴォロンテ)。

ボジェルは隙を見て列車の窓を破り、逃亡する。

マルセイユからほど近い刑務所。

刑期明けで間もなく出所できる予定のコーレイ(アラン・ドロン)は、看守から宝石店を襲う計画を持ち掛けられた。

だが「またここに戻りたくない」と看守の提案を断るコーレイ。

出所後コーレイは、かつての仲間でおおきな「貸し」のあったリコから「貸し」を返すよう迫るが、リコは言を左右にはぐらかそうとする。

リコを恫喝して大枚を手に入れるコーレイだったが、リコはコーレイに追手を差し向ける。

古巣パリに向かうコーレイの車のトランクに、偶然、逃亡中のボジェルが転がり込む。

コーレイが追っ手に囚われたとき、ボジェルの銃の腕が発揮される。

追っ手を退けることができた二人は、互いに察するものがあり、友情を深めるが、コーレイが手にしていた大金は、ボジェルが乱射した銃弾に血まみれの穴だらけにされ、使い物にならなくなってしまった。

一文無しになってしまったコーレイだったが、かつて看守に持ち掛けられた宝石店襲撃の計画を思い出す。

厳重な宝石店の防護設備を破るために、射撃の名人が必要だとわかると、ボジェルは昔の仲間で元警官のジャンセン(イヴ・モンタン)を呼び出す。

いっぽう、ボジェルに逃げられたマテイもその捜査になりふりかまってはいられなくなっていた。

マテイはかねてから親交のあるギャングのひとり、サンティ(フランソワ・ペリエ)に協力を要求するが、「警察の犬にはなりたくない」とサンティは断る。

しかしマテイはサンティの息子にマリファナ常習犯の濡れ衣をかぶせ、逮捕。

愛する息子を助けるために仕方なくサンティはマテイに従う。

宝石店襲撃を実行に移すコーレイ、ボジェル、ジャンセンに、サンティ、マッティの敵対勢力が絡み、男たちの戦いは佳境を迎えていく・・・。

『仁義』に生きる男たちの熱い挽歌

原題のLe Cercle Rougeはフランス語で、日本語に訳すと「赤い輪」という意味。

映画の冒頭でラーマクリシュナの言葉からの引用として、次のようなテロップが流れる。

“賢者 釈迦牟尼 またの名を仏陀は
 赤い粘土を手に取り 輪を描いて言った
 人は必ず どこかで巡り合う
 互いの身に 何が起きようと
 他人同士で 別々の道を歩もうと
 赤い輪の中で運命的に出会う、と”

これから物語を展開する、運命の赤い輪でつながれた5人の男たちを象徴する言葉だ。

フレンチ・フィルム・ノワールの代表的監督、ジャン・ピエール・メルヴィルが、友情や裏切り、挫折を軸に男たちを描く傑作サスペンスが、この『仁義』。

そのほかのメルヴィル監督の作品がそうであるように、セリフは必要最小限で、ややもするとわかりにくい、難解なシナリオ。

そして月明かりの下で撮られたかのように暗い画面が特色。

信念を静かに貫く男たちに美学を見出し、それを描こうとするのがメルヴィル監督の作風だ。

アラン・ドロンやイヴ・モンタンといったフランス映画界のスターも十分に力を発揮している。

どこか哀愁をさえ感じさせるマッティ刑事を演じるブールヴィルは、彼しかいないだろうといったはまり役。

ブールヴィルはこの『仁義』が遺作となっている。

前作の『影の軍隊』(1969年)、そして『仁義』のあとに撮った遺作となる『リスボン特急』(1972年)などに共通していえることだが、メルヴィル監督の作品は一回見ただけではわかりにくい。

作品の長さに疲れてしまうわりには、気が抜けるシーンが極端に少ない。

ひとつシーンを見逃すと、ピースを無くしたパズルのように、描かれたものがわからなくなってしまう。

よくあるハリウッド流に洗練された、お約束のシナリオ運びなどと一線を画すメルヴィル監督独自の作風のためだが、逆に寡黙な男の美学を演出するには、この極端に無駄をはぶいたストイックさが良い。

『男たちの挽歌』のジョン・ウー監督もメルヴィル監督からの影響を公言している。

今では「男の世界」などといえば、古臭い価値観だと切り捨てられてしまうものだが、表面的なものではなく、もっと深層の、ハードボイルドな生き方を描いたものとして、この『仁義』を味わってもらいたい。

フレンチ・フィルム・ノワールの後期の栄光を代表する作品でもある。

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