『ジャンヌ・ダルク』
1999年アメリカ・フランス
監督:リュック・ベッソン
音楽:エリック・セラ
主演:ミラ・ジョボヴィッチ
『ジャンヌ・ダルク』イントロダクション
イングランドとフランスが争う百年戦争末期。
フランスのある村にジャンヌという、人並み外れて信仰心の篤い少女がいた。
一日に何度も懺悔に教会を訪れ、神父が逆に困り果てるほどった。
そのジャンヌの村が、イングランド軍の焼き討ちにあう。
ジャンヌは姉を目の前で惨殺され、心に傷を負う。
やり場のない悲しみを教会の神父にぶつけるジャンヌ。
そのジャンヌに、神父は「いつか神がお前を必要とするときがくる」と慰める。
そして数年後。
伝統的に戴冠式を執り行う場所であるランスをイングランド軍に占領され、王になれないでいるシャルル7世のもとに、ジャンヌからの手紙が届く。
一軍の勢力を与えてくれれば、必ずランスを取り戻し、シャルルを王位につけ、フランスを勝利に導くと。
最初はジャンヌのことを信用しなかったシャルル7世だったが、ふと興が乗り面会することにする。
だが、ジャンヌにはシャルルの身代わりを代わりに面会させ、自分は背後から様子を見る算段だった。
ところがジャンヌは面前の男が身代わりであることを見抜き、本物のシャルルを見つける。
ジャンヌに神がかったものを感じたシャルルは、ジャンヌに軍勢を与えることを決めるのだっった・・・。
けして聖女には描かないリュック・ベッソンの『ジャンヌ・ダルク』
ジャンヌ・ダルクといえば、フランスでは「オルレアンの乙女」とも呼ばれ、100年戦争でフランスを救った聖女としてあがめられる存在である。
敗戦続きで領土を失っていくばかりのフランス軍に、神の啓示を受けたとして参加し、数々の重要な戦いで勝利をおさめ、王太子シャルルの戴冠に貢献した。
その後ジャンヌはブルゴーニュ公軍の捕虜となってしまい、身代金と引き換えにイングランドに引き渡される。
王となったシャルル7世からの助けは無かった。
ジャンヌはイングランドにとっては当然、フランスから敗走せざるを得ない状況を作った悪女である。
異端審問にかけられ、魔女として19歳の若さで火刑となり、その生涯を閉じる。
20世紀に入ってから、教会で聖人として認められたことから、さまざまな音楽や演劇、物語の素材になったジャンヌ・ダルクだが、今回の映画ではリュック・ベッソン監督は必ずしもジャンヌを聖女のようには描かなかった。
思わせぶりなカットはあるものの、神秘描写は入れず、リアルにジャンヌの生涯を映像化している。
そのジャンヌ像は、エキセントリックな少女で、戦においては高揚し軍の先頭に立ち、兵士たちはつられるようにして敵陣に飛び込んでいくのである。
ミラ・ジョボヴィッチ演じるジャンヌは、狂的に雄たけびを上げ、戦場で笑みすら浮かべる。
けして聖なる光を帯びて神聖な軍隊を率いるような、聖女然としたジャンヌ像はそこにはない。
フランス内での政争に知らず知らずに巻き込まれ、イングランド軍の手中に落ち、異端審問をうけるジャンヌをもまた、リアルに残酷に描かれている。
当時の異端審問は、現在の我々からすると理不尽なことも多々ある。
状況証拠がない以上、自白によって刑を決するのであるが、その自白も誘導尋問やだまし討ちのようなものばかりである。
文字の読み書きができないジャンヌに宣誓書を読んで聞かせ(当然内容はジャンヌに都合のいいことが書いてると、嘘を言って聞かせる)、サインを迫り、字が書けないとなると「×印で良いから」とでたらめなサインをさせて押し通すのである。
また女性が男装するのも当時のキリスト教では罪とされた。
寒い牢獄でジャンヌの衣服を奪い、男物の服を置いておくのである。
仕方なく男物の服を着たジャンヌに罪をかぶせるための罠である。
こういった鼻をつままんばかりの教会異端審問官の所業の数々のはてに、ジャンヌは火あぶりの刑に処せられる。
リュック・ベッソンは聖女ではないジャンヌの生涯の物語を描くことで、100年戦争当時のヨーロッパのリアルな戦争や人々の生活、貴族たちの政争や宗教の有り様をもフィルムにしようとしたのだろう。
残酷な描写も多いので地上波で放送されるときはカットされるシーンも多い。
気になる方はオンデマンドやDVD・ブルーレイなどのソフトでご覧になるといいだろう。
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