『記憶にございません!』
2019年東宝
英題:Hit me Anyone One More Time
監督:三谷幸喜
脚本:三谷幸喜
音楽:荻野清子
出演:中井貴一
ディーン・フジオカ
石田ゆり子
小池栄子
斉藤由貴
吉田羊
木村佳乃
山口崇
草刈正雄
佐藤浩市
『記憶にございません!』イントロダクション
夜の東京都内、とある病院の病室に、ベッドで一人の男(中井貴一)が目を覚ます。
頭には包帯が巻かれていた。
腕には点滴がさされ、パジャマ姿。
だが男はなぜ、自分がそうなったのか、ここがどこなのか、そして自分が誰なのか、すっかり忘れてしまっていた。
病室を抜け出そうとすると、黒ずくめのスーツの男たちが控えており、パニックになった男は病院を脱走する。
パジャマ姿で不審がられながら夜の街を歩く男には、人々から奇異の目が注がれるが、また同時に、その視線に憎しみや嫌悪があるのに男は気が付く。
定食屋で男はテレビから流れるニュースを見ると、そこには自分そっくりの男が映っていた。
それは総理大臣・黒田啓介だった。
ニュースでは、黒田総理が官邸のテラスに姿を現した際、投石を頭に受け、病院に担ぎ込まれたことを知らせていた。
同時に自分が「史上最悪のダメ総理」であることを知った黒田は、やがて現れたスーツ姿の屈強な男たちに自動車に連れ込まれ、首相官邸に連れていかれる。
官邸の一室で黒田はビクビクしながら秘書官たちからビデオ映像をみせられると、そこには野党議員に暴言を吐く横暴な自分の姿が映し出されていた。
これが果たしておなじ自分なのか、と愕然とする黒田。
一国の首相が記憶喪失に。
この、国政を揺るがしかねない一大事は、当面のあいだ黒田本人と、秘書官の井坂(ディーン・フジオカ)、番場のぞみ(小池栄子)のあいだだけの秘密とすることになった。
いちど私邸に戻った黒田は、やはり勝手がわからず、妻の聡子(石田ゆり子)やハウスキーパーの寿賀(斉藤由貴)、息子の篤彦(濱田龍臣)からも不審がられ、また、家族のなかでも問題があることがだんだんわかってくる。
公務においても黒田は実際の権力は官房長官の鶴丸(草刈正雄)に握られており、官僚たちもボンクラ揃い。
国民からの支持率も最低なのも納得だった・・・。
目が覚めたら記憶を失っていた総理大臣が巻き起こすドタバタ劇!三谷幸喜監督・脚本の政治コメディー『記憶にございません!』
三谷幸喜の映画監督作としては8作目。
「現実の政治はこんなに都合よく展開しない」というかたは、これが映画で、ファンタジーで、喜劇であることを忘れている。
本作は三谷幸喜の最高傑作と言っても良い作劇の完成度を誇っている。
記憶を無くす総理大臣ほか、一癖も二癖もある登場人物が、実力派豪華俳優陣によって演じられる。
喜劇というのは、なにも面白いセリフばかり言うことではなく、間合い、タイミングが大事なのだとよくわかる。
これが三谷幸喜がいつも自分の監督作で、ファミリーともいえるおなじみの俳優のメンツをそろえる理由でもある。
もちろん、三谷幸喜の脚本も毎度のことながら見事な構成・展開をみせる。
2時間という時間めいいっぱいに、これでもかと言わんばかりに盛り込まれる出来事の数々、しかし不要なエピソードは何も無く、貼られた伏線はどれもしっかり回収されていく。
そしてやはり今回の主役を務める中井貴一は見事な役者だと、改めて見せつけられる。
頼りない男の演技から、しっとり落ち着いた演技、次第にうちに力を秘めた希望を抱く政治家と、変わりゆく同一人物のキャラクターを演じている。
現実の政治に辟易しているかた、ちょっと骨休めにご覧になってはいかがだろうか。
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