映画評『グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札』現代世界史と映画史を知って3度おいしい映画

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『グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札』
2013年フランス
監督:オリヴィエ・ダアン
脚本:アラッシュ・アメル
主演:ニコール・キッドマン

『グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札』イントロダクション

オスカーにも輝いた人気絶頂のアメリカ人名女優グレース・ケリー(ニコール・キッドマン)は、ハリウッド・スターの座を捨ててモナコ公国大公のレーニエ3世(ティム・ロス)と結婚、モナコ公妃となり、5年が過ぎる。

グレースはいまだモナコ宮殿のしきたりに馴染めず、公務にいそしむレーニエ3世ともすれ違いが重なり、力を入れていた赤十字の運動もうまくいかない。

そんなとき、1961年12月、グレースを訪れるハリウッド監督ヒッチコック(ロジャー・アシュトン・グリフィス)が訪れる。

ヒッチコックはグレースに新作映画『マーニー』のシナリオを持ってきた。

主演のオファーに喜ぶグレースだったが、ひとまず公妃としての立場から、返答を保留する。

同じころ、フランス大統領ド・ゴール(アンドレ・ペンヴルン)は、長引くアルジェリア戦争を背景に、モナコ政府に対して、モナコ国内にあるフランス企業から税金を徴収、フランスに支払うように要求してきた。

(当時モナコ公国は外国から誘致した企業の税金を免除、タックス・ヘイブンだった)

「国家の基盤を揺るがす」とレーニエ3世は徴税を拒否するが、フランス側は「要求を拒否するならば、モナコをフランス領として併合する」と圧力をかけ、モナコとフランスは緊迫した状況に陥る。

レーニエはグレースの銀幕復帰を認めたが、その公表は両国の問題が落ち着いたらにしようと考えていた。

しかし、グレースの女優復帰の情報が宮殿内からマスコミにリークされる。

グレースは「モナコから逃げ出そうとしている」と批判の的になってしまう。

グレースから相談を受けたタッカー神父(フランク・ランジェラ)は、宮殿内のスパイの存在を示唆。

秘密裏にスパイを探すようグレースに進言する。

いよいよ強まるフランスの圧力に屈したレーニエ3世は、フランス企業への課税を了承するが、今度はド・ゴールはモナコ企業にも課税し、フランスに支払うよう要求をエスカレート、モナコとの国境を封鎖する。

レーニエとの仲も冷え込み、モナコ公国も危機。

グレースは一つの決意を胸に、行動を開始する・・・。

『グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札』は映画史と世界史を連動して知っていると、より楽しい

この映画は史実をもとにしたフィクションである。

映画の冒頭でもそれは宣言されている。

しかしグレース・ケリーの伝記映画として喧伝されている面も大きい。

それは作品をリアルにするために、ふんだんに盛り込まれた史実のためだろう。

グレース・ケリーはハリウッドで大成功していた美人女優で、ゲイリー・クーパーの『真昼の決闘』(1952年)でヒロインに抜擢。

その後ヒッチコックに気に入られ『ダイヤルMを廻せ!』(1954年)や『裏窓』(1954年)『成金泥棒』(1955年)などでもヒロインを務めている。

1955年の『喝采』でアカデミー主演女優賞を受賞。

その絶頂期の1956年にモナコ大公レーニエ3世との婚約を発表、同年結婚した。

本作『グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札』のなかで、ヒッチコックがグレース・ケリーに持ち込んでくる作品『マーニー』は、ヒッチコック・ファンならニヤッとするところで、1964年実際に公開されたサイコスリラー映画だ。

『マーニー』のヒロインは盗癖のある女性という設定なので、これをもしモナコ公妃であるグレース・ケリーが演じていたら、きっと大問題になっていたに違いない。

時代背景となる1950年代後半のモナコ、フランス間の関係は非常に微妙で、当時フランス領だったアフリカのアルジェリアが独立戦争を起こしていた。

劇中にあるようにタックスヘイブンとして、海外の企業を国内に誘致、おもに観光業を主軸としていたモナコだったが、アルジェリア戦争の戦費に苦しむフランスに目をつけられ、フランス企業からの徴税を強要されている。

また国際連合にも参加していなかったため、フランスの併合の脅しにたいして、他の国々からの援護を得るのに苦慮している。

ちなみに1993年になってようやくモナコは国連に加盟している。

そんな歴史を念頭におくと楽しめる仕掛けがあちこちに施してある。

歴史のスキマをうまく突く形で作劇されたシナリオが見事だ。

また、グレースが疑う宮中のスパイの存在もあり、サスペンス要素も楽しめる。

冒頭にもあるように、この映画は事実をもとにしたフィクションである。

歴史の表には出てこないグレースの活躍を描いているところが魅力だ。

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