映画評『海外特派員』ヒッチコックのハリウッド2作目は戦火へのメッセージ

映画 映画評
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『海外特派員』
1940年アメリカ
原題:Foreign Correspondent
監督:アルフレッド・ヒッチコック
主演:ジョエル・マクリー

『海外特派員』イントロダクション

第2次世界大戦直前、アメリカの新聞記者ジョニー(ジョエル・マクリー)は特派員としてヨーロッパに派遣された。

ロンドンで和平工作のカギを握るとされる老政治家ヴァン・メア(アルバート・パッサーマン)と接触をはかるジョニー。

平和運動家で富豪のフィッシャー(ハーバート・マーシャル)が開いたヴァン・メア歓迎会でジョニーはフィッシャーの娘キャロル(羅レイン・デイ)と知り合い、彼女のことが気に気に入ってしまう。

ジョニーはこの歓迎会の直前、ヴァン・メアとタクシーを相乗りして会場に一緒についたはずだが、歓迎会にはヴァン・メアは欠席しており、不審に思うジョニー。

平和会議の取材のためにアムステルダムを訪れたジョニーは、会場の入り口でヴァン・メアが暗殺される現場に居合わせる。

カメラマンに変装した暗殺者がヴァン・メアの脳天をを撃ちぬいたのだ。

犯人は車で逃亡。

それを追うジョニーは、郊外の風車が立ち並ぶ村で、犯人の車を見失う。

まるで煙のように消えてしまったのだ。

だが1基の風車の挙動がおかしいと気づいたジョニーは、風車小屋の中に犯人とその一味を発見する。

風車小屋に忍び込んで様子をうかがううち、なんとジョニーは撃たれたはずのヴァン・メアが生きて囚われているのを発見する・・・。

ヒッチコックのハリウッド進出第2作にこめられたメッセージ

アルフレッド・ヒッチコック、ハリウッド進出の第2作目は、第2次世界大戦前夜のヨーロッパを舞台にした、新聞記者とスパイの情報争奪サスペンス。

製作された1940年という年代を考慮すれば、この作品が作られた背景に、単なる娯楽ではなく別の意味が見えてくる。

前年の1939年から世界各地で起きたきな臭い事件を上げてみよう。

1939年5月、ノモンハン事件、同8月、独ソ不可侵条約調印、そして翌9月にはナチスドイツのポーランド侵攻、第二次世界大戦の勃発だ。

翌年1940年6月、イタリアは英仏に宣戦を布告し、ドイツ軍はパリに無血入場を果たす。

日独伊3国同盟が結ばれるのは1940年9月だ。

アメリカはこの時、欧米を脅かす戦争の影に戦々恐々だった。

海を渡ったアメリカの大地に戦争の火の粉がとびかかるのは時間の問題。

そんな瀬戸際に、海外特派員、ジャーナリストという職業が一つの戦いを繰り広げていたのは、けしてフィクションのなかだけの話ではないだろう。

現在進行形の危機感や閉塞感がこの映画の公開当時の人々にはあったはずだ。

アメリカ国民向けの国威発揚的なラストシーケンスは、さすがのヒッチコックも入れずにはおかなかったのだろうか。

主人公ジョニーは最初は物見遊山でロンドン、オランダと取材に飛ぶ。

持ち前のアクティブさで事件のしっぽをつかむが、思った以上に大きなヤマを引き当ててしまう。

序盤のヴァン・メア暗殺/誘拐事件の裏には、もっと深い陰謀が隠されている。

やがて恋仲になるキャロルも、単なるヒロイン枠ではなく、そのポジションにはちゃんとドラマが用意されている。

仕掛けがちりばめられた脚本(チャールズ・ベネット、ジョーン・ハリソン)がなかなかにくい。

監督ヒッチコックの演出技法にも目を凝らしたい。

序盤の暗殺者を追うカーチェイスシーンのスピード感、風車小屋内部でのスリルなどヒッチコックらしい演出が見ていて引き込まれる。

詳細は避けるが物語後半での飛行機のシーンなども「これどうやって撮ったんだ?」と首をひねる迫力が感じられる。

前作『レベッカ』(アカデミー書受賞)のように、賞にこそ恵まれなかったが、そのテーマ性の独特さで上質なサスペンス映画となっている。

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