『どら平太』
2000年どら平田製作委員会
原作:山本周五郎「町奉行日記」
監督:市川崑
脚本:黒澤明
木下惠介
市川崑
小林正樹
音楽:谷川賢作
出演:役所広司
片岡鶴太郎
宇崎竜童
菅原文太
石倉三郎
石橋蓮司
浅野ゆう子
『どら平太』イントロダクション
江戸時代のとある藩にて。
江戸屋敷から町奉行として、望月小平太(役所広司)が赴任してくる。
この藩では、藩の重職と、「壕外」と呼ばれる無法地帯を束ねる三人の親分たちが結託し、壕外で博打や身売り、密貿易で稼ぎ出される莫大な上納金は財政難の藩の財政に充てられていた。
この壕外での悪事を暴こうと奮闘してきたこれまでの町奉行たちは、次々に辞職に追いこまれていたのだ。
新しく赴任してきた望月小平太は、居並ぶ藩の重職たちの前で藩主からの全権を委任するお墨付きを読み上げ、「壕外の大掃除をする」と宣言する。
だが望月は江戸ではとんでもない遊び人として知られ、道楽者のどら平太、と異名があった。
その噂はさっそく国許にもながれており、志のある若手藩士からはそれ原因で命を狙われる始末。
友人の安川半蔵(片岡鶴太郎)は望月を心配するが、望月はもう一人の友人である仙波義十郎(宇崎竜童)に悪評を流すよう頼んだのだと答える。
望月は奉行所に出仕することもなく、武士は立ち入りを禁止されている壕外に入り浸る。
入り浸って、酒、博打、女遊びの豪遊をくり返す。
金は仙波から工面してもらっていた。
そうしながら望月は壕外の遊女やチンピラたちから情報を集めていた。
それによると壕外の三人の親分は、互いにテリトリーを決めて争わないようにしているとのことだった。
三人の親分を互いに争わせ、その隙に付け入ろうとしていた望月は当てが外れ、作戦の練り直しを迫られる。
そうこうしているうち、江戸から望月を慕う芸者こせい(浅野ゆう子)が望月の居場所を見つけ出し、乗り込んできて・・・。
晩年でも切れ味鋭い市川崑監督の映像美『どら平太』
市川崑監督は2008年に亡くなるまで、多彩な作品を撮り続けた。
『どら平太』もその中の一本だ。
晩年とは言え独特の構図、セリフをセリフにかぶせる会話の演出、カット割り、スローモーションを巧みに織り込むなどいわゆる市川崑ならではのフィルムづくりは健在。
またスタッフのクレジットを極太明朝体で、画面に沿って直角に曲げて表記する独特の表記法は有名で、庵野秀明監督の『新世紀エヴァンゲリオン』でもそオマージュが見られ、エヴァンゲリオンの大ヒットのあとではバラエティ番組のテロップでそのテクニックのコピーがいまだに氾濫している。
『どら平太』は山本周五郎の時代小説「町奉行日記」を原作に取っているが、そもそもは「四騎の会」と呼ばれる脚本・企画グループが1969年に脚本執筆に取り掛かって、企画が宙に浮いていた作品だ。
「四騎の会」とは黒澤明、木下惠介、市川崑、小林正樹という日本映画界のそうそうたる監督が結成した会。
さて『どら平太』の面白さであるが、やはり主人公の望月小平太「どら平太」のキャラクターの強烈さであろう。
やたら腕っぷしは強いし、酒は飲むは、女遊びはするは、博打は打つはとでたらめな行動っぷりが突き抜けていて見ていて気持ちいい。
しかもそれら行動が実は、腐敗した藩の行政を根元から解決するための算段に基づいているという計算高さもある。
そのくせ、気の強い江戸の芸者のこせいには頭が上がらないという。
とても人間として魅力的だ。
時代劇のヒーロー像にぴったりだが、突き抜けているという点で、けして古くはない。
そんなどら平太をビタッと演じる役所広司がまた見事だ。
2000年代に新しいスタイルの時代劇を見せてくれた『どら平太』、時代劇ファンならずとも見ておいて損はない。
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