『マンハッタン無宿』
原題:COOGAN’S BLUFF
1968年アメリカ
監督:ドン・シーゲル
主演:クリント・イーストウッド
西部の荒野。何かが走る一条の土煙。それは馬・・・いやジープだ!
クリント・イーストウッドが西部劇のヒーローであることを逆手に取った小憎い演出のオープニング。
イーストウッドとドン・シーゲルが初めてタッグを組んだハードボイルド・アクション、のちの『ダーティ・ハリー』の原点ともいえる、孤軍奮闘する無頼刑事ものの原点的作品がこの『マンハッタン無宿』である。
『マンハッタン無宿』あらすじ
アリゾナの荒野で一匹狼・荒くれ者のクーガン保安官補(クリント・イーストウッド)が、殺人犯のリンガーマン(ドン・ストラウド)の身柄を引き取るために大都会ニューヨークを訪れる。
カウボーイハットにウエスタンブーツ姿のクーガンは行く先々で「テキサス」呼ばわりされるが、「アリゾナだ」と主張する。
リンガーマン引き渡しのためとはいえ、ニューヨーク市警の煩雑な手続きに嫌気がさしたクーガンは、勝手に留置場からリンガーマンを引き取る。
だが、空港でリンガーマンの仲間に襲われ、逃げられたうえに拳銃まで奪われてしまう。
責任を感じたクーガンは保護観察係のジュリー(スーザン・クラーク)に近づき、リンガーマンの恋人リニー(ティシャ・スターリング)の情報を得る。
今度はリニーに接近したクーガンは彼女を脅し、遂にリンガーマンの居場所を突き止める。
郊外の教会に潜んでいたリンガーマンは再び逃走を図り、それをクーガンは追う・・・。
のちの『ダーティーハリー』の原型ともいえる佳作
クリント・イーストウッドとドン・シーゲルの初タッグ作となるこの『マンハッタン無宿』だが、お互い顔の見せあい、軽くジャブを打った感じだ。
『ダーティハリー』シリーズほどの緊迫感やスピード感はないし、犯人を追う捜査も淡々とした印象を受ける。
イーストウッド映画にハズレなし、の標語がこの映画ではちょっと出しづらいのが困る(苦笑)
ラストのバイク・チェイスのシーンは唯一の例外で、ここが(ここだけが)一番盛り上がる。
イーストウッドがスタントなしでこなしていいて、階段もバンバン乗り越えちゃう。
乗りこなせるのは馬だけじゃなかったんだイーストウッド!
この映画がなぜ盛り上がらないか考えてみると、尺の割にイベントが緩慢なのが原因ではないのか。
93分という映画としてはごく普通の長さだが、物語の中の出来事としては60分のドラマ並み。
主人公がマンハッタンに行く
↓
犯人に逃げられる
↓
2~3か所で情報集める
↓
犯人を追いつめる
ぶっちゃけこれだけに終始しており、どんでん返しも何もない。
シナリオがありきたりなのである。
シナリオライターはハーマン・ミラー、ディーン・リーズナー、ハワード・ロッドマンの三人。
もともとテレビドラマの企画としてアイデアが出され、ハーマン・ミラーとジャック・レアードが脚本を担当、初期の脚本にイーストウッドが難色を示し、主軸のハーマン・ミラーは残ったがレアードが抜け、ディーン・リーズナーとハワード・ロッドマンが参加した経緯がある。
わりと難産だったことが想像されるが、それでこれじゃあなあ・・・。
クセの強い刑事が単独行動で犯人を追う、というアイデアはおそらくイーストウッドも、監督のドン・シーゲルも気に入っていたのだろう。
ゾディアック事件という実際の犯罪を下敷きに、個性的な一匹狼の刑事が犯人を追う『ダーティ・ハリー』でそれは開花するのである。
この映画一番の魅力といえば、まだ若く髪もフサフサのイーストウッドのカッコ良さである。。
スーツ姿にカウボーイハット、ウエスタンブーツでも似合ってしまうのは、この時期のイーストウッドだからこそか。
なかなかこのファッションで違和感がない役者っていないと思う。
原題は“COOGAN’S BLUFF”、クーガンのブラフ(はったり)といったところだが、邦題の『マンハッタン無宿』はよくぞつけたなと拍手したい。
アリゾナからたった一人、援軍もなく知人もいないニューヨークはマンハッタンに乗り込んだ主人公のさすらいを、「無宿」という言葉でよく表現している。
この映画の功績は、クリント・イーストウッドとドン・シーゲルの邂逅を果たしたことだ。
前述の『ダーティ・ハリー』をはじめ、『真昼の死闘』『白い肌の異常な夜』『アルカトラズからの脱出』など、イーストウッドは監督としての技術やマインドをシーゲルから学んでいく。
現在の“監督”クリント・イーストウッドがあるのは、この時出会ったドン・シーゲルの存在有らばこそと言っても過言ではない。
イーストウッド監督が初めてオスカーを手に入れた作品『許されざる者』がセルシオ・レオーネと並んでドン・シーゲルに捧げられているのはそういうわけだ。
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