『影の軍隊』
1969年フランス
原題:L’ ARMEE DES OMBRES
監督・脚本:ジャン=ピエール・メルヴィル
音楽:エリック・ド・マルサン
主演:リノ・ヴァンチュラ
『影の軍隊』イントロダクション
第二次世界大戦、ナチスドイツ占領下のフランス。
1942年10月20日。
雨が降りしきる無人の農村を、一台の護送車が抜けていく。
運ばれる男はフィリップ・ジェルビエ(リノ・ヴァンチュラ)。
ドイツ軍に逮捕され、収容所に入れられるのだ。
ジェルビエは優秀な土木技師であると同時に、反乱分子として捕まったのだった。
収容所には反ナチスのフランス人のほか、ロシア人、ポーランド人、ユダヤ人など様々な人種が収容されていた。
収容所からゲシュタポ本部へ連行されるその夜、ジェルビエは隙を見て脱出。
以後、レジスタンスに身を投じた。
ジェルビエはマルセイユに行き、同志フェリックス・ルペルク、ル・ビゾン、ル・マスクに合流し、裏切り者で密告者のポール・ドゥナを処刑する。
ジェルビエはパリ、ロンドンへと次々に舞台を変え任務を果たしていくが・・・。
フレンチ・ノワールの巨匠メルヴィル監督描く男の美学が渋い『影の軍隊』
映画『影の軍隊』はナチスドイツに反抗したフランス・レジスタンスの物語だ。
メインの主人公はリノ・ヴァンチュラ演じるフィリップ・ジェルビエだが、映画はそのほかのレジスタンスたちの戦いも描く。
派手な戦闘シーンや、スピーディなアクションはいっさい、ない。
冒頭の裏切り者の処刑をはじめ、諜報活動や要人の脱出、ゲシュタポに捕まった仲間の暗殺など、非常に地味で暗い活動が、延々と描かれる。
だが作品は徹頭徹尾、重苦しい緊張感でつらぬかれ、目を離すヒマはない。
設定がわかりにくい、というのはあるにはあるのだが、それがメルヴィル監督の作風といえば作風でもある。
レジスタンスたちの、ゲシュタポとのストイックな戦いは、陰鬱だ。
捕まるな、捕まったら逃げろ、拷問されても見方は売るな、裏切り者は処刑する、そんなエピソードの積み重ねでこの映画は構成されている。
そこにはメルヴィル監督の、運命に徹する男たちの美学を重視する姿勢が見て取れる。
アラン・ドロン主演、メルヴィル監督の『サムライ』もそうだった。
アラン・ドロン演じる孤独な暗殺者の生きざまを、やはり静かだが緊迫感みなぎる演出と、必要最低限のセリフで描いていた。
タイトルの『影の軍隊』とは
タイトルになっている『影の軍隊』とは、前線で戦う兵士や軍人ではなく、自らの意志と信念で戦う無名の市民たちのことである。
ナチスドイツに蹂躙された祖国の復讐のために、密かに戦うレジスタンスたち。
そこには、国によって組織された軍隊のような明確な規律があるわけではない。
だが、軍隊ではありえないような困難、たとえば、仲間の裏切りと粛清、いつ敵に見つかるとも知れぬ連続した緊張感がある。
仲間と結ばれた友情も、明日には仲間の死で終わるかもしれない刹那感。
その友情も、裏切りで終わるかもしれない無常感。
かつて仲間であったものに、自ら死を与えなければならない非情感。
それらを貫いて生きる彼らレジスタンスの姿に、メルヴィルは美学を見出したのだろう。
メルヴィルはこの『影の軍隊』で、淡泊とも言っていいほど簡潔に、淡々と事象をフィルムにした。
自身がレジスタンス運動に参加した経歴を持つメルヴィル監督。
それゆえの緊張感が生まれる。
残酷な世界の美しさとでもいえるもの。
そしてメルヴィルが描く作品世界を通して、われわれもまた、メルヴィルが感じた同じものを感じる。
映画冒頭にこんな言葉が流れる。
“数々の苦い思い出がいとおしい
過ぎ去った青春の証だから”
けして感傷的なキラキラした映画ではない。
見た後に残るのは人生のほろ苦さかもしれない。
だからこそ、この『影の軍隊』はレジスタンス映画の傑作として名を残している。
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