映画評『海よりもまだ深く』団地を舞台に、売れない小説家を主人公にして、夢見た未来と違う今を生きる、元家族の物語

映写機 映画評
スポンサードリンク

『海よりもまだ深く』
2016年ギャガ
英題:After the Storm
監督:是枝裕和
脚本:是枝裕和
原案:是枝裕和
音楽:ハナレグミ
出演:阿部寛
   真木よう子
   小林聡美
   リリー・フランキー
   池松壮亮
   吉澤太陽
   橋爪功
   樹木希林

『海よりもまだ深く』イントロダクション

自称小説家の良多(阿部寛)は、過去に文学賞を受賞した経歴はあるものの、それ以降は鳴かず飛ばず。

筆も進まず、現在は興信所で働いている。

興信所での仕事は、あくまで小説の題材のための取材活動だと言い訳しながらも、彼自身はギャンブルに目がなく、お金にはだらしなく、いわゆるダメ人間だ。

そんな良多に愛想をつかした妻の響子(真木よう子)は、息子の真吾(吉澤太陽)を連れて離婚、彼のもとを去ってしまっていた。

金に困ると良多は、清瀬市の団地に住む母親の淑子(樹木希林)を頼っていた。

半年前に良多の父親・つまり淑子の夫は亡くなり、淑子は今はひとり暮らし。

良多の姉の千奈津(小林聡美)もよく母のもとを訪れては、良多の無心に注意するよう淑子に言っていた。

千奈津もよく良多に金を無心されていたのだ。

ある日良多は何か金目のものは無いかと、淑子の留守中に部屋を物色するも、何も見つからない。

帰ってきた淑子はそんな良太の行動はお見通しで、亡父の遺品はすべて処分したとそっけない。

アパートのベランダには、いくつかの植物の植木がありその中に良多が昔植えたミカンの木があった。

淑子は、この花も実もつかないミカンの木を良多だと思って大切に育てているという。

「こんな木でも何かの役には立っている」そう淑子はつぶやくのだった。

ちょっと感動した良多は、なけなしのお金を淑子にお小遣いだと渡して団地をあとにする。

帰り道、良多は質屋を訪れる。

少年野球をやっている息子の慎吾にグローブを買ってやりたいのだが、資金に困っていた。

質屋の主人は、良多の父親もよく来ていたという。

そしてろくなものを預けには来なかったと。

がっくりして良多は質屋をあとにする。

良多は、興信所の仕事もまじめにやっているとはいいがたかった。

所長の山辺(リリー・フランキー)には隠れて、依頼者や調査対象者をだましてお金をせしめていた。

そんな良多だったが、部下の町田(池松壮亮)はなぜか協力的。

「先輩には借りがありますからね」というが、良多には身に覚えがなかった。

ある休日、良多は町田とともに響子の尾行をし、彼女に新しく恋人ができたことを知る・・・。

団地を舞台に、売れない小説家を主人公にして、夢見た未来と違う今を生きる、元家族の物語『海よりもまだ深く』

是枝裕和監督で、主演の阿部寛は『歩いても歩いても』(2008年)、『奇跡』(2011年)、ドラマ『ゴーイング マイホーム』に続いて、是枝作品には4度目の出演となる。

古い団地を舞台にして、主人公とその家族が、かつて夢見た未来と、「こんなはずじゃなかった」未来を生きる姿を描くヒューマンドラマ。

第56回カンヌ映画祭「ある視点」部門出展作品。

ノルウェーの第26回フィルムズ・フロム・ザ・サウス映画祭で最高賞のシルバー・ミラー賞を受賞した。

主人公はダメ人間で、妻からは離婚され、息子は月に一度しか会えない。

母や姉に金は無心するし、ギャンブルに目がなく、しかし息子にはいい格好をしたい。

この主人公にからむ登場人物たちがほぼみんな、「こんなはずじゃなかった」を抱えている。

そしてさまざまな愛の形を表現し、ぶつかり合う。

親と子、兄弟、男と女、是枝監督の手によりそれらが丁寧に描かれ、ストーリーはじっくりと進んでいく。

また、この映画には人生の名言が多い。

節目節目で、リアルに引用したくなるセリフの数々が登場人物の口からこぼれる。

映画で描かれた物語の外側にも世界が広がっているのがうかがえる、文学的な読み込みができる深い作品。

こちらの作品もどうぞ!
≫映画評『万引き家族』社会の底辺にいる家族を通して描かれるヒューマンドラマ

コメント

タイトルとURLをコピーしました