『無宿(やどなし)』
1974年 東宝
監督:斉藤耕一
脚本:中島丈博
蘇武道男
出演:勝新太郎
高倉健
梶芽衣子
『無宿(やどなし)』イントロダクション
昭和初期。
駒形玄造(勝新太郎)と穴吹錠吉(高倉健)は同じ刑務所内で見知った仲。
同じ日に二人は刑務所を出所する。
玄造は愛人でドサ廻りの坂東梅之丞の芝居小屋へる。
やくざ者だった錠吉は、かつての兄貴分の女房・ユキノを女郎部屋へ訪ねるが、ユキノは故人となっていた。
その女郎部屋で知り合ったサキエ(梶芽衣子)から、ユキノは自殺したこと、そしてこのままだと同じ道を自分もたどることになる、足抜けを手伝ってほしい、と錠吉は頼まれる。
たまたまその女郎に遊びに来ていた玄造の機転で、錠吉はサキエを逃がすことに成功する。
しばらくは旅の道を同じくしていた錠吉とサキエだったが、夏祭りの人ごみでサキエは錠吉を見失ってしまう。
だが今度は、その夏祭りでサキエは玄造に再会する。
サキエから錠吉がかつて潜水夫であったことを聞き、玄造は錠吉が自分のある「計画」を実行するのに必要な人材だともくろむ。
ある宿場で錠吉を見つけた玄造は、その「計画」を打ち明けるが、錠吉は翌朝ひとりで姿を消した。
錠吉には、ユキノの夫であった兄貴分の仇を討つという目的があったのだ・・・。
勝新太郎と高倉健、二大スター唯一のタッグ作『無宿(やどなし)』
大雑把なストーリー展開は、このあと出会いと別れをくりかえしつつ、二人の男が海軍の沈没船を引き上げ一攫千金をもくろむことになるのだが、思ったような冒険活劇になることはなく、任侠もののスタイルが多分に前に出た作品になっている。
勝新太郎、高倉健という二大映画スターの共演と言いながらも、二人が手を組むのは映画の終盤になってからで、少々物足りない感じもする。
だが、二人の魅力は存分に発揮されている。
映画の製作は勝プロダクションだが、カッコいい役どころはすべて、高倉健に譲っている。
着流し姿でかつて多くの任侠映画に出演した、あの高倉健の姿をこの『無宿(やどなし)』でも見ることができる。
いっぽうの勝新も、豪快ながらもどこか憎めないやんちゃな男、みんながイメージする勝新を演じてくれている。
見ていてどちらも好きになれる、素晴らしい映画スターの共演作だ。
あらすじとのギャップで損しているかもしれない作品
前述の通り、あらすじが二人の男と女が一人、海底に眠るお宝を巡っての冒険・・・という、これはロベール・アンリコ監督、アラン・ドロン主演の『冒険者たち』(1967年)をベースにしている。
しかし映画の3分の2は任侠もののストーリーに費やされ、あらすじとのギャップで見ていてだるさを感じてしまう。
高倉健はカッコいいし、勝新太郎は豪快だし、梶芽衣子は可愛カッコいいし、役者陣が立ってるのは間違いない。
演出もちょくちょく光るものがある。
高倉健が演じる錠吉と、仇の仙蔵(安藤昇)の決闘シーンなど、今でもカメラワークがすごくイケてる。
だが、任侠ものの前中盤と冒険ものの終盤にやや展開に無理が生じ、この具合の悪さになっているように感じる。
前半、錠吉と玄造の二人が基本的にバラバラに行動し、サキエが間を結ぶ展開ではあるものの、中盤ではこの三人が合流していても良かったように思える。
錠吉と玄造の二人を交互に追うシナリオは、密に組みあがっており、これをいじるのは難しい。
もっと根本的な、前段階でのプロットの作成時に、もとにした『冒険者たち』との齟齬に気付かなかったとは思えないのだが・・・。
結局完成したフィルムは、役者はいいのにストーリーでは派手さに欠けるという、ちょっと残念な映画と言わざるを得ない。
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