映画評『タクシー運転手 約束は海を越えて』真実を追う外国人記者と彼を助ける現地の人々の感動ドラマ

カチンコ 映画評
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『タクシー運転手 約束は海を越えて』
2017年韓国
英題:A Taxi Driver
監督:チャン・フン
脚本:オム・ユナ
音楽:チョ・ヨンウク
出演:ソン・ガンホ
   トーマス・グレッチマン

『タクシー運転手 約束は海を越えて』イントロダクション

キム・マンソプはしがない普通のタクシー運転手。

妻に先立たれ、11歳になる娘と二人で借家暮らしをしており、家賃の未払いが10万ウォンにも上っていた。

生計を立てることに精いっぱいなマンソプは、政治には無関心。

光州で起きたらしい民衆のデモと軍の衝突についても、他人事であった。

そんなキム・マンソプはタクシー運転手のたまり場の食堂で、儲け話を耳にする。

ある運転手が、日本からくるドイツ人ジャーナリスト、ユルゲン・ヒンツペーター(トーマス・グレッチマン)を光州まで送迎すると、10万ウォンが手に入るという話だ。

そもそも仕事を依頼されていた別のタクシー運転手を出し抜き、ヒンツペーター(以下、ピーター)を自分の車に乗せることに成功するキム・マンソプ。

二人を乗せたタクシーは、揚々と光州に向かう。

だが光州に入ろうとすると、軍が検問をしていた。

ピーターは身分を隠し、大事な商取引があるから光州に行かなくてはならない、と偽り、検問を通り抜ける二人。

光州の街にたどり着くと、町は荒れ果て、閑散としていた。

そこに、デモに参加しようとする学生たちを乗せたトラックがあらわれる。

ピーターは取材のために学生たちについていくことにする。

キム・マンソプは逃げ出そうとするが、通りすがりの老女に頼まれ、病院に行くことに。

そこには、軍の暴虐により死傷した多数の無残な人々の姿があった。

報道では聞かなかったそれらの真実を目撃し、次第にキム・マンソプの心はざわめいてゆく・・・。

真実を追う外国人記者と彼を助ける現地の人々の感動ドラマ『タクシー運転手 約束は海を越えて』

この映画は実際に韓国で1980年に起きた光州事件という軍隊・警察と民衆デモ隊の大規模なぶつかり合いを素材に、そこで起きている民衆弾圧の真実を伝えようと取材する外国人記者と、彼を助ける現地の人たちの国境を越えた絆を描く。

主演は第72回カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した『パラサイト 半地下の家族』(2019年)でも主演を務めたソン・ガンホ。

最初は政治的無関心だった気楽な一市民でありながら、光州の悲惨な状況を目にし、次第に真実のために突き動かされていくタクシー運転手の心の動きを、見事に演じている。

実際に起きた光州事件は、全斗煥らによるクーデターや金大中の逮捕を発端として、学生や市民を中心としたデモが戒厳軍との銃撃戦を伴う武装闘争へと拡大していった事件で、デモの参加者は20万人を数え、やがて市民軍となるが、最終的には大韓民国政府によって鎮圧される。

同国民同士でぶつかり合う惨状は、広州市民のみならず、本作品にもあるようにドイツ人特派員ユルゲン・ヒンツペーターらの報道によって、世界に知らされた。

韓国史的には光州事件は民主化の象徴でもある。

映画を盛り上げるためか、タクシーと装甲車のカーチェイスシーンがあるが、蛇足だろう。

そんなことをしなくても十分に感動のドラマとなっている。

前述のとおり主演のソン・ガンホをはじめ、出演陣の熱演が韓国人の人情味のある気質を表しているようで、無残な軍とのぶつかり合いや悲惨な病院のシーンと対照をなして、見る者の胸を打つ。
近いようで遠い、遠いようで近いお隣の国韓国。

その韓国の誇る感動のドラマを見ずに、韓国映画は語れない。

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