前職でお客様と同じ事務所で働いたことがありました。
結論から言うと、四六時中一緒にいるもんじゃねえ、なのですが、営業からは「大変だとは思うけど、お客様は神さまだから、うまいことやってね」と言われるばかり。
いったいいつごろからこんなことが言われるようになったのか。
そして本当にお客様は神様なのでしょうか。
①三波春夫説
最初に「お客様は神様です」といったのは浪曲家で講談師、演歌歌手の三波春夫(1923-2001)だというのが通説ですが、もう少し調べてみると少しだけそれは違っていることがわかります。
1961年(昭和36年)ごろ、ある地方都市の学校の体育館でのこと。
漫談家で司会の宮尾たか志と対談の際でのやりとりが事の発端のようです。
宮尾「三波さんは、お客様をどう思いますか?」
三波「うーむ、お客様は神様だと思いますね」
これがどっと受けた。
そうしてこのやり取りを全国で続けているうちに、これを見た漫才トリオのレッツゴー三匹がネタにした。
「三波春夫でございます。お客様は神様です」
これがテレビを通して浸透していった、というわけです。
②三波春夫の真意
三波春夫自身は「お客様は神様です」を、客に媚びへつらい、何をされても我慢する、といった意味で使ったわけではありませんでした。
“三波春夫にとっての「お客様」とは、聴衆・オーディエンスのことです。客席にいらっしゃるお客様とステージに立つ演者、という形の中から生まれたフレーズです。”
出典「お客様は神様です」について
“「歌う時に私は、あたかも神前で祈るときのように、雑念を払って、心をまっさらにしなければ完璧な藝をお見せすることはできないのです。ですから、お客様を神様とみて、歌を唄うのです。また、演者にとってお客様を歓ばせるということは絶対条件です。だからお客様は絶対者、神様なのです」”
出典「お客様は神様です」について
三波春夫は、お客様を神様ととらえることで、自らの芸に磨きをかけ、雑念を払い最高の芸を披露できるようにする。まるで神事における神官のようです。三波春夫が自分自身に課した芸磨きの行のための信念をあらわすのに用いたのが、「お客様は神様」という、いわば方便だったのです。
けして無条件にお客様を崇め奉り、ひいては奴隷のように奉仕するなどという意味ではないのです。
③自分を神だと思っている客
自分を神だと勘違いする客を育んだ要因の一つには、人間尊重の精神が薄れたからだと三波春夫。
会社の社長が「お客様は神様。クレームはラブレター」と社訓で垂れるような時代が確かにかつてありました。
そうした考えが客を増長させた(甘やかした)という一面もあったと思われます。
客の横暴なクレームだけではなく、学校でもモンスターペアレンツの出現など、どうも日本ではお客様を甘やかし続け、企業側が毅然とした態度をとる努力を怠ってきたのが現状でしょう。それが最近やっとSNSなどソーシャルメディアの発展とともに、自称「神」の被害者が発信するようになり、注目を浴びるようになってきた。
横暴な振る舞いに出る客のほとんどが、「客=神=何をしても許される」と勘違いしていることは明らかですね。
お金を払ったのだからサービスされるべき。サービスのためなら従業員の人格を踏みにじっても良い?
明らかな勘違いなのは、ちょっと客観的に考えればわかりますよね。
三波春夫自身、こんな質問を受けたことがあるそうです。
「三波さん、お客様はお金をくださるから神様なんですか」と。私はその時その人に聞きました。
「じゃああなたは神様からお金や何かをもらったことがありますか。お賽銭を上げてお参りするだけでしょう」
出典 三波春夫オフィシャルブログ 三波春夫の笑顔の秘密 より(現在は記事が削除されています)
④等価交換の法則
お客様から頂くものはお金です。
支払われたお金に見合ったサービスを提供するのが等価交換の考え方であり、本来あるべきではないでしょうか。
サービスは無料ではありません。この辺りを勘違いしている人も多いと思います。
サービス残業なんて言葉もあるくらいです。
でもお金=対価をもらってしかるべきなのです。
お上、目上の人、上司、客・・・よくよく考えてみたら、ほぼすべてお金と労働の交換契約の上に成り立ってませんか?
ならば正当な報酬を求める権利がありますよね。
⑤「ならば今すぐ愚民どもすべてに叡智を授けてみせろ!」
甘やかされた自称「神」への対応はなかなか難しいですよね。
「いいえ、あなたは神ではありません」ときっぱり言ってのけるホテルの支配人。
「ほかの神様のご迷惑になりますので・・・」と頓智をきかせる飲み屋の従業員。
「人間界は初めてですか?」と返したコールセンター。
ネットに散らばるウィットの効いた対応の数々が、逆にいかにクレーマーが多いかを教えてくれますね。
お客様はお客様。神様を自称することが勘違いですので、それに気づかせるのが一番。
それがスッとできれば昔の私も同じ事務所内のお客様に戦々恐々しなくて済んだでしょうが。
最後に。
「ならば今すぐ愚民どもすべてに叡智を授けてみせろ!」
これはアニメ映画「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」で、シャアがいうセリフです。
これなんて相当とがった返答ですよね。別にシャアが接客してるシーンなんかないんですけど。
こちらの記事もどうぞ
≫仕事ができない上司とのつきあい方
コメント