『臆病者のための億万長者入門』 橘 玲 著
思わずこの本を手に取ってみてしまいました。
私は臆病者です。
億万長者にもなれるものならなってみたいです。
読んだ内容は、説明を受ければ至極まっとう、論理的でした。
著者の結論はオビにすでに書いてあります。
“金融機関の「ウマそうな話」はすべて無視!”
この本はこれから無駄にお金を失わないための、これからの資産運用知識、金融リテラシーが書いてあります。
今まで金融や資産について抱いていたイメージ、価値観が大きく変わる・・・そんな内容です。
失われた20年?
年金崩壊?
国家破産?
不安だらけのこの時代に、自分の財産をいかに守り、増やせばいいのか・・・。
宝くじ、年金、保険、為替、株、投資信託、不動産・・・。
あらゆる切り口で、作者が理論的に金融の常識について教えてくれます。
蓄財の優等生と劣等生

お金持ちと貧乏人の差ってなんでしょうね?
やっぱりどれだけ資産を持っているか、ですよね。
なら、どのくらい持っていればお金持ちなのでしょうか?
元ニューヨーク州立大学教授のトマス・スタンリーが著書『となりの億万長者』のなかで、次のような方程式を紹介しているそうです。
期待資産額=年齢×年収/10
あなたが金持ちかどうかを一瞬で計算できる式ということで、本文を引用すると
“たとえば、あなたが40歳で年収600万円とすると期待資産額は2400万円になる(40歳×600万円/10)。55歳で年収1000万円なら5500万円だ(55歳×1000万円/10)。(中略)蓄財優等生のハードルはかなり高い。”
本文17~18ページ
期待資産額以上の資産を持っているならお金持ち優等生。それ以下なら劣等生です。
あなたはどうですか? 私は明らかに劣等生ですが(苦笑)
シンプルですね。
お金持ちになるための方法は3つだけ

- 収入を増やす
- 支出を減らす
- 資産を上手に運用する
これを「お金持ちの方程式」、として表すと、
総資産=収入-支出+(資産×運用利回り)
資産というのは、収入の多い少ないによって決まるのではなく、収支の差額から生み出されるものである、ということ。
そして
収入を増やすには=勤労
支出を減らすには=倹約
上手な資産運用=堅実な運用
が一番おすすめの手段。
これもシンプルな考え方です。
いわれれば「そうだよね」ってところです。
年金問題の解決法

さて、資産の話になってきたところで、まず年金について考えます。
“年金制度はそもそも、定年で強制解雇によって労働市場から退場させられるサラリーマンを救済する制度だった。”
本文34ページ
そ、そうですね。そういわれれば・・・。
とすれば、単純に考えると、定年をなくせば年金問題は存在しなくなります。
“~それ以前は国民の大半は農業などの自営業者で、一生働くのが当たり前だったから年金制度は必要なかった。
本文34ページ~35ページ
(中略)人口が減少する社会では高齢者や女性の労働力に期待するしかないのだから、仕事の機会は今よりもずっと増えるだろう。肉体労働のような単純作業は移民などによって担われ、知識や経験のある労働者はそれぞれの専門分野で働き続けることになるはずだ。だとしたら重要なのは、必死にお金を貯めることよりも(それが悪いとはいわないが)、労働市場のなかで自分の価値を高め、年齢にかかわらず稼げるようになることだ。
「老後問題」の本質は老後が長すぎることにある。だったら、それを解決するには老後を短くすればいい。”
これまでのサラリーマンは定年が来たら退職してあとは年金で悠々自適、というこれまでの価値観が揺らぎますね。
揺らぎませんでしたか?
なら次はどうです?
宝くじは「愚か者に課せられた税金」

宝くじを買うひとは資産運用に成功できないそうです。
よ~く考えてみましょう。
宝くじは確かに1枚300円で数億円あたるチャンスがあります。
しかし、ジャンボ宝くじの1ユニットは1000万枚、その中で1等5億円は1枚、前後賞は2枚です。
1等前後賞で7億円が当たる確率は、1000万分の1を下回るのです。
本書によると
“宝くじで1等が当たる確率は交通事故死の300分の1以下。ということは、宝くじを10万円分買って、ようやく1年以内に交通事故で死ぬ確率と同じになる。”
本文42ページ
“宝くじの商品特性を金商法の理念に照らすと、券面にはリスクとコストを次のような文面ではっきりと書く必要がある。
本文43ページ
「宝くじの購入にはリスクがあります。1等の当せん確率は1000万分の1で、宝くじを毎回3万円分、0歳から100年間購入したとしても、99.9%の購入者は生涯当選することはありません」
「宝くじには、購入代金に対して50%の手数料がかかります。宝くじの購入者は、平均して購入代金の半額を失うことになります」”
こうきたら、つぎから宝くじ買うのやめようって思いますよね。
「いや、自分には一発逆転のチャンスがあるかも」
とまだ思っている人は、心理的な落とし穴に、まんまとはまっているのです。
資産運用の4つの原則

資産を増やしたい、というひとが考えるのが、資産運用。
銀行や投資信託会社の商品を調べたことありますか?
案内を受けたことありませんか?
そのときに心の隅に置いておきたい原則があるそうです。
聞けば「むむ、なるほど!」と唸ることになります。
①確実に儲かる話はあなたのところには絶対に来ない
②誰も他人のお金のことを真剣に考えたりしない
③誰も本当のことを教えてはくれない
④自分の資産は自分で守るしかない
そうあってほしくないことばかりですよね(笑)
ですがその心理が、金融機関の営業マンにとってまんまと付け入るスキになっているわけです。
マイホームと賃貸、どっちが得か問題

「マイホームは資産になるから、買ったほうが得」とは必ず不動産屋さんが言う言葉です。
ですが将来日本は、人口が減っていきます。
世帯数が減る=家の数が減る のが自明であり、つまり住宅の需要が減っていく世の中が来ることになります。
需要が減ると価値が下がる、ということは、将来住居も価格が減るんじゃないでしょうかね。
でもそれだと不動産屋さんはもうからない。
だから不動産屋さんは今後も「マイホームは買ったほうが得」と言い続けるでしょう。
戦後の、不動産が投資であるという考え方が揺らいでいます。
本書の中で、同じ投資対象でありながら、株式市場と不動産市場を比較されています。
①株式は市場で取引されるが、不動産は相対取引だ
不動産はオープンな市場がなく、価格は不動産屋と客のあいだで交渉で決まる、というわけです。
②株式市場では時価が瞬時に公開されるが、不動産取引では売り手の希望価格しかわからない
③株式取引では特定の投資家だけを優遇できないが、不動産取引では顧客を差別することが当たり前になっている
不動産では、どの物件を誰に紹介するかは、不動産屋の胸先三寸ということですね。
④株式市場では投資家にすべての情報が公開されるが、不動産取引では最低限の情報しか教えてもらえない
⑤株式取引の手数料は自由化で下がったが、不動産仲介手数料はいまだに割高だ
これらを見るだけでも、不動産がいかに不利な商品かというのがわかります。
資産を守れる思考

2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンは、私たちは「速い思考」と「遅い思考」を使い分けていると言います。
“速い思考は直感のことで、わかりやすくて快適だ(心理的な負荷が低い)。暗闇で何かの気配を感じ、「危険だ」と警告を発するのが速い思考だ。
本文245ページ
それに対して遅い思考は、二桁の掛け算を暗算するようなもので、心理的にも身体的にも負荷が高い。”
石器時代では生き残るために「速い思考」が必要だったが、文明社会になると、「遅い思考」の価値が高くなり、さらに現代では「遅い思考」が重要になってくる。
為替や株式などはバーチャルな商品で、「速い思考」で考えることは向かない、ということなんですね。
“こうした視点に立つと、金融市場がどんな場所か見えてくるだろう。そこでは遅い思考のできるひとが、速い思考しかできないひとをカモにしているのだ”
本文246ページ
“トレーダーでもないかぎり、金融取引に速い思考は必要ない。直感的に「得だ」と思う話はすべて胡散臭いと考えて間違いない”
同246ページ
ここでやっと、オビのアオリ文句が出てきましたね。
“カモ”にされるか 資産を守れるか
そして作者の結論はこうです。
“金融機関が熱心に勧誘するウマそうな話はすべて無視する”
億万長者に近づくために、まずはゆっくり構えるところから始めてみましょう。
『臆病者のための億万長者入門』 橘 玲 著
文春新書 2014年初版
目次
第1章 資産運用を始める前に知っておきたい大切なこと
第2章 「金融の常識」にダマされないために
第3章 臆病者のための株式投資法
第4章 為替の不思議を理解する
第5章 「マイホーム」という不動産投資
第6章 アベノミクスと日本の未来
終章 ゆっくり考えることのできるひとだけが資産運用に成功する
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